明日発売の新刊レビュー
『さめない街の喫茶店』はしゃ 不思議な世界のグルメファンタジー
中山賢司
店の仲間と味わう手作り料理の温かさ
キャトルの仲間は決して多くはない。
のんびり屋で淹れるコーヒーが美味しいと評判の店主・ハクロを始めとして、飲食店を経営するお酒好きな女性・メンタ、飄々とした青年のエルド、その妹で双子の魔女・ソールとマーニくらいだ。
ただ、訪れた人をもてなそうと、スズメは心を込めて料理や飲み物を準備する。
その際、素材ひとつひとつまで丁寧に描かれたレシピや調理法など、「作る」プロセスの楽しさが丁寧に表現されている。
その上で、完成した料理を気心が知れた仲間とに味わう喜びが画面から滲み出ているように感じられ、読んでいて温かい気持ちにさせられた。
“さめない街”の行方
スズメはしばしば、現実世界で眠りからさめないこと、つまりルテティアでの生活をつづけたい心情を吐露している。
そんな気持ちとは裏腹に、彼女はいつか、この生活が終わることも本能的に理解しているように見受けられる。
スズメが迷い込んでしまった“さめない街”の正体とは果たして何なのか? 現実に戻るべきか、夢に留まるべきか、ふたつの世界の狭間で揺れ動く彼女の複雑な気持ちにも注目しながら、じっくりと結末を見届けて欲しいと思う。
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