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須藤佑実『ミッドナイトブルー』出来の悪い恋の美しさを思い出させてくれる短編集

小林聖

誰もが心に秘めている“ガラクタの宝箱”

「FEEL YOUNG」に掲載された読み切りをまとめた須藤佑実氏の短編集『ミッドナイトブルー』が11月8日に発売となる。表題作を含む7作品が収録されている。

タイトルにちなんで、中面も黒でなく濃紺のインクで印刷。カバーを含め、美しい1冊だ。

数十ページに詰まった技巧とユーモア

『ミッドナイトブルー』に収録された短編はそんな装丁がよく似合う、美しく少し切なくなるような恋の物語だ。

2年に1回の火星観測会で死んだ同級生の幽霊に会う表題作のほか、テレビで見るアナウンサーを好きになった女子高生に起こった小さな奇跡を描いた『夢にも見たい』、祖母の住む田舎で出会った不思議な少女との物語『今夜会う人』など、少し不思議な要素を含む話も多く、小さな謎と意外な結末が読み手を惹きつける。

端々に散りばめられたユーモアも、作品とキャラクターに軽やかさを与えている。恋心という情緒的なテーマを描きながら、このユーモアが作品全体を軽やかにしており、読後感が必要以上にクドくなるのを防いでいる。

「バイトの求人広告かよ」。先輩のツッコミが秀逸。こういうディテールの面白さが軽やかさを与え、主題の恋の鮮やかさを際立たせている

会話を読んでいるだけで楽しくなるような作品群だ。

出来の悪い恋が詰まった宝箱

だが、何より印象的なのはそこで描かれる恋心の鮮やかさだ。
『ミッドナイトブルー』で描かれる恋は、どれも初恋のような無防備さを持っている。

人は大人になると自然と恋にこなれていく。
付き合ったあとのこと、これからの人生や生活、結婚などについても想像しながら向き合うのが普通になっていく。
そういう恋が不純であるというわけではない。むしろ恋愛関係を当たり前の人間関係のひとつとしてとらえられるようになったということだし、生活のなかで信頼関係を築き、維持していていくためには重要なことだ。

だけど、初恋が多くの人にとって特別な記憶になるのは、そういう一切とほとんど無関係な気持ちだったからだろう。
うまくいきそうかとか、「いいところも悪いところもある」といった冷静なバランス感覚とも無縁に、ただただ無防備に「相手が素敵だ」という気持ちに振り回される。
だからこそ、結果的に失恋したり、破綻したりすることが多くなる。いってみれば「出来の悪い恋」だ。それでもなぜか、人は初恋を忘れない。

収録1本目の「箱の中の思い出」で、主人公の高校教師はモノローグでこんなことを語る。

「生徒達にとって窮屈な学校も卒業してしまえば小さな箱になる」
「たまに覗き込んでは想い出に浸る箱」

過ぎてしまえばガラクタの詰まった箱に見える青春時代。だけど、ガラクタのようなものだからこそ、人はときどき思い出す

『ミッドナイトブルー』はまさにそういう短編集だと思う。思い返せばバカみたいで、いかにも子どもだったと恥ずかしくなるような思い。だけど、ときどきふっと覗き込みたくなるもの。
そんないつかの気持ちを思い出させてくれる、“ガラクタの宝箱”のような短編集なのだ。



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©須藤佑実/祥伝社フィールコミックス