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単行本レビュー

『空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』スズキスズヒロ 新鋭の放つ芳醇な“ファースト・ドリップ”

加山竜司

6作品が収録されたファースト作品集

イースト・プレスの運営するWebメディア「マトグロッソ」で活動するスズキスズヒロ氏の初の作品集がリリースされた。
本作に収録されているのは『木村先生』『銃声を削り出す』『TRAINSPOTTING』『TAXI DRIVER』『KIDS RETURN』(いずれも初出は「マトグロッソ」)と、単行本用に描き下ろされた表題作『空飛ぶくじら』の合計6本。

2016年からの作品をまとめた、いわば作者の「初期作品集」である。
コーヒーでたとえるなら“ファースト・ドリップ”であり、この作品群にスズキスズヒロ氏の作家性のもっとも濃い部分が抽出されているといえるだろう。

なかでも注目したいのが、2019年に全4回にわけて短期集中連載された中編『銃声を削り出す』だ。
主人公の青野は、工業高校に通う高校生である。青野、田中、ヒロシ住田を中心とした不良グループであったが、学校側の一方的な処分により、住田が退学になってしまう。以来、住田とは連絡が途絶え、18年の歳月が経過していた。

家業の工場を継いだ青野のもとに、18年ぶりに住田からの連絡があり、ドラマは大きく進展していく。ヤクザになった住田の持ち込んだ“厄介ごと”を解決するために、かつての不良仲間がひさしぶりに顔をそろえることに……。
大人になることと青春を描いた、ヒューマンドラマである。

工業機械が削り出すコントラスト

単行本のプロフィールによると、作者は第2種電気工事士と危険物取扱者の資格を持っているらしい。『銃声を削り出す』の舞台は工業高校であり、作中に旋盤やフライス盤といった工業機械が登場(わかりやすい解説つき)するあたりに、作者のキャリアが活かされている。

これら作中に登場する工業機械は、住田の持ち込んだ“厄介ごと”を解決するために役立つだけでなく、作品に大きな効果をもたらしている。
工業機械の世界は日進月歩、工場を継いだ青野も、設計事務所で図面を引いている田中も、半導体工場でSEとして働くヒロシも、現代の工業知識と技術を身につけている。一方、18年前に工業高校をドロップアウトしてヤクザになった住田は、CAD(コンピュータを用いた設計)を知らないように、現代の工業知識には疎い。
住田だけ、18年前のままなのだ。必然的に青野たち3人の会話にはついていけず、かつて同じ学校で机を並べた悪友たちと、大きな隔たりを感じてしまう。

この「住田だけ18年前のまま」というのは、工業機械に対する知識だけにとどまらない。彼らの現在の置かれている社会的な状況・立場をも示唆している。
“選んだ道”“選ばなかった道”
工業機械によってカタギとヤクザのコントラストを浮き彫りにし、時間の流れの残酷さを感じさせる仕掛けとなっている。こうしたモチーフの使い方は、ほかの誰にも真似できない、この作者ならではのオリジナリティだ。

映画的表現による読みやすさ

ほかの収録作品のタイトルから推察するに、作者は映画が好きなようで、作画的にも映画的表現が見てとれる。
『銃声を削り出す』を例にすると、場面が転換するところでは必ず俯瞰のコマが挿入されるので、読者は場所の移動や時間の変化を理解しやすい。

また、高校時代の青野たちが学校の屋上でダベっているシーンや住田が車の中で思案するシーンなど、同じコマ割りを多用するのも特徴的で、これらは映画における“長回し”(ワンカット撮り)のような緊張感を生む。

こうした映画的表現は、なによりも“読みやすさ”に通じる。読者はノイズを感じることなく、すんなりと物語へと没入していけるだろう。

「初の作品集」と銘打った本書だが、なによりも新人らしからぬ読みやすさに驚かされるはずだ。ちなみに、奥付を参照し、作品が発表された時系列順に読んでいくと、こうした表現技法が洗練されていく過程が味わえるので、作家性が削り出されていく様子を追えるのも初期作品集ならではの楽しみ方ではないだろうか。

スズキスズヒロという新鋭の放ったファースト・ドリップを、じっくりと味わってほしい。



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