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脇田茜『ライアーバード』音が見える天才少女と無愛想なギタリスト。2人の出会いが生む音楽

たまごまご

真逆の2人が出会い、音楽が始まる

音が形になって見える少女。ひたむきにギターに打ち込む青年は、彼女の才能に激しく嫉妬する。
これは、自分たちの「音」を求め迷走する2人の物語。

「COMICリュウ」で連載中の、脇田茜氏による青春音楽ストーリー『ライアーバード』の単行本1巻、2巻が、明日10月13日に同時発売される。

ギターと音楽と「ライアーバード」

ギタリストのヨタカは、愛想のない青年。
彼は音楽喫茶・ライアーバードにいるときだけは、笑顔だった。経営しているのは、ヨタカが尊敬するギター弾きのマスター。
ギターと音楽と「ライアーバード」があれば十分、他に何もいらないと信じていた。

この店に、野性的な少女・コトがやってくる。けたたましくしゃべり、店中を走り回る。めちゃくちゃだ。
ところが彼女は、ヨタカがどうやっても再現できなかったマスターの演奏を、一度聞いただけで、あっさり弾いてしまう。
コトは音を視覚的に捉えることができ、一度聞いただけで、どんな曲でも正確にコピーできる才能を持っていたのだ。

特別な能力なんていらない、と思っていたヨタカだったが、自分では絶対に手に入れられない力を目の当たりにして、打ちひしがれる。

そんな彼に、マスターは言う。

「これからはボク抜きで二人にこの店支えてもらうねんから」

マスターの演奏が、自分の全てだったのに。
ヨタカは、信じて追いかけ続けていた「音楽」が、わからなくなった。

うまい曲を追いかけても

ヨタカは録音した曲を何度も聞いて練習し、論理的に演奏していくスタイル。
一方コトは何も考えず、自分の見えている気持ちいい音だけを探していく破天荒なスタイル。
2人とも「自分の音」を見つけていない。

コトは天才として描かれている。だがそれは人の音楽を完璧にコピーしているだけで、彼女自身のオリジナルではない。それにコトは、自分に見えている音が、他人には見えていないことを理解していない。

ヨタカはテクニックを磨きに磨いており、間違いなくギターがうまい。しかし彼は「マスターそのものになりたい」という幻想を抱きすぎており、それ以外を見ていない。

足りない。他になにもいらない、満足だなんて、嘘だ。気づいてから彼の音楽はどんどん変わっていく

誰かになんてなれないのにね。
実は彼、自分の楽しい「音」はすでに出せている。コト視点の音の形でちゃんと描かれている。

コトもモノマネばかりだが、すでに自分の「音」は持っている。
2人とも、自分たちが音にどんな欲望を持っているのか、見えていないだけだ。

あざやかな、音

この漫画では、コトの感覚を通して音が具象化されている。とてもまばゆく、サイケデリック。ひと目で「ステキな音」だと感じられる、きらびやかで変幻自在な形状で表現されているので、ぜひ見て欲しい。

漫画で音を表現するのはものすごく難しい。どうやったって本物の音楽の迫力にはかなわない。
と同時に、聞こえないからこそ読み手が自由に、最高の音楽を空想できるよう導く力が、漫画にはある。
ヨタカが伸び伸びと彼の音で演奏したとき。コトが自由気ままに歌ったとき。その音は花火のように画面中に飛び散る。

2巻で2人は、自分たちなりの模倣ではない演奏をした。初めて本当の意味で、自分たちだけの音に気づいた。コトは叫ぶ。

「コトのや」「今のはっ、ヨタカとコトのモンや!!」

誰かのコピーではない、自分たちだけの音が産まれた瞬間

本来音楽は好き勝手やっていいもの。
だが成長したいとなると、まずは自分の欲求に耳を傾けなければいけない。そのあとは、がむしゃらに欲望を追い続けるしかない。もちろん追い続けても、手に入るかどうかわからない。

過酷な状況。だがそれは、思春期に夢が見つからない状態、将来どうするか迷っている状態とよく似ている。

音楽をやったことがない人でも、2人の苦しみには共感できるところが多いはずだ。

コミュニケーションを取るのも下手くそな、不器用極まりない2人が一歩踏み出す。
2人はまだ自由に音楽を奏でるきっかけを見つけたばかり。どんどん新しい、多彩な「音」を見せて欲しい。



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©脇田茜/徳間書店