新連載レビュー
河部真道『バンデット –偽伝太平記–』野心渦巻く南北朝時代、歴史を変えた“悪党”がいた!
加山竜司
bandit(=悪党)の時代
時は1323(元亨3)年11月。
播磨国佐用庄赤松村(現在の兵庫県佐用町)の村はずれに、荷物運びの集団がいた。主人公の“石”は下人であり、鎖に繋がれ、ひたすら荷台を押している。と、そこに野盗の一団が現れ、商人たちはことごとく討ち取られてしまった。運良く難を逃れた“石”は、晴れて自由の身となる、かに見えたが……。
この赤松村とは、史実では播磨守護・赤松則村(円心)が本拠地とした領地である。円心はのちに元弘の乱(1333年)のとき、反幕府勢力に協力して鎌倉幕府打倒の一役を買う。
倒幕後の新政権にも反旗を翻し、その後は足利尊氏(室町幕府の初代征夷大将軍)に荷担するなど、まさに円心こそ「生来の反逆者」と呼ぶにふさわしい傑物だ。
時代が大きく変わる最中……といえば聞こえはいいが、世の中に不満や怨嗟が充満し、行き場を失ったエネルギーがいまにも噴出しそうな「熱の時代」といえる。
そんな時代のうねりの震源地で、主人公は悪党(既存の支配権力に抵抗する者)と出会うのであった。
主人公は、読者が出会ったことのないタイプ
前作『ボッチャン』にも言えることだが、作者の描く主人公からは、(あくまで表面上は)どこか一歩引いたような印象を受ける。
危機に瀕しても大声で叫ぶわけではない。そんな平熱感は、主人公の行動が復讐とか報復といった仄暗い動機に裏打ちされているからだろうか。
いずれにせよ、われわれがいままでに出会ったことのないタイプの主人公である。
“石”の目には、動乱の時代はどのように映るのか。
歴史の波に翻弄されて、彼はどのように成長していくのか。
たくましく生命力に充ち満ちているのに、これほどハラハラさせられる主人公も珍しい。
時代を揺さぶる悪党たちの活躍に、ジリジリと挑発されてほしい。
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©河部真道/講談社