明日発売の新刊レビュー
桑原太矩『空挺ドラゴンズ』龍を追い、食らう! 雲の海を行く者たちの物語
籠生堅太
龍のいる暮らしと人々
「龍一頭に七市(ななまち)賑わう」
工芸品に薬に油、なにより食べたらおいしい空飛ぶ宝の山、龍。
そんな龍を追いかけ、空を旅するものたちがいた。龍(おろち)捕り。
これは捕龍船クィン・ザザ号クルーたちの空の記録。
食べものだけじゃない! 龍のいる異国の物語
「good!アフタヌーン」で連載中の『空挺ドラゴンズ』第1巻が明日11月7日に発売される。
架空の存在を捕え、料理にする。
狩りのワクワクと料理のドキドキ、その両方をいっぺんに味わえるような作品が増えていている。
しかし『空挺ドラゴンズ』の魅力は、ただ龍料理がおいしそうなだけじゃない。
“龍”という存在が本当に存在したら、世界はどんなふうな形になっていただろうか。
それを衣食住、人々の営みの細かい部分まで考え抜き、ひとつの世界を築き上げている。
この空飛ぶ不思議な生きものは実在して、それを追う人々が今もこの瞬間、この世界のどこかで暮らしているのではないか。
『空挺ドラゴンズ』を読むと、どこか知らない国の話を聞かせてもらったような気持ちになる。
いつか私もその国を訪れてみたい。彼らと一緒に龍を捕え、同じ食卓を囲ってみたい。
そんな思いが止まらなくて、つい夢中にページをめくってしまう。
家族のように結ばれたクルーたち
龍はおとなしく狩られるだけの獲物ではない。
こちらが命を落とすこともある危険な相手なのだ。
また空中海賊などの無法者も存在するのが、この世界の空。
船が落ちれば一連託生。運命をともにするクルーたちは、家族のように強く結ばれているのだ。
捕龍船のクルーたちは、一癖も二癖もあるような人物ばかり。
ほかのことには無頓着だけれど、龍に夢中の主人公・ミカにお調子者の新人・タキタ、少し神経質なジローにミステリアスなヴァニーなど一人ひとりがとても魅力的。
つねに死と隣合わせにもかかわらず、彼らが軽口を叩き合う様子はとても心地がよい。
個性の強すぎるキャラクターに細部まで練り込まれた設定。
ひとつひとつの要素が魅力的で、あちこち寄り道したくなりそうなところを、びしっとまとめ上げているのが、ミカの「ただ龍が好き」というシンプルで強い動機だ。
彼が何よりも龍を追うことに熱意を注ぎ、夢中になってくれるおかげで、読者も安心して物語に没入することができる。
龍を追い、雲の海を行く者たち。彼らとの物語は始まったばかり。これからどんな景色を見せてくれるのだろうか。
講談社 (2016-11-07)
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©桑原太矩/講談社