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墨佳遼『人馬』美しく、力強い半人半馬たちの生き残りをかけた逃避行

武川佑

戦の道具に堕とされた者たちの再生の旅路

2月17日発売の墨佳遼氏の『人馬(じんば)』「マトグロッソ」連載、イースト・プレス刊)の表紙を飾る、鮮やかな赤に彩られた力強い体躯、意思を宿した目を持った半人半馬。人でもなく、馬でもなく、時に神とも称され、時に戦の道具として人に使役される人馬という生物だ。

馬よりも速く、人よりも山に長ける。いつしか人馬は戦の道具として狩られるようになっていった

『人馬』は中世日本をベースにした架空世界で繰り広げられる物語。人馬・松風(まつかぜ)小雲雀(こひばり)の出会いと逃避行が描かれる。

人馬のフェティッシュな魅力

山岳生まれの人馬・松風は人に捕らえられた先で、幼い頃から人に飼いならされた両腕のない人馬・小雲雀に会う。人に従順そうに見えた小雲雀は脱出の機会をうかがっており、ふたりは人間の城郭から脱出する。

かつては山賊だった荒々しい気性の松風と、人に捉えれれ使役される小雲雀。ふたりは生き残るため追手から逃れるべく野山を駆けることに

人馬のフォルムにぞくぞくする。
山岳育ちで有椀の松風は、日本の在来馬のように足が太く、逞しい。
一方、平地生まれで人に調教された小雲雀は細身で、脚はサラブレッドのように繊細だ。彼の腕は騎乗のため後天的に「落とされ」、また性的な奉仕にも従属させられている。

小雲雀を支配し、異形の「モノ」に作りかえたのは――人だ。
欠けたもの、支配されるものから背徳的な美を感じることは、健全でないとわかりつつも胸が高鳴る。

鬱屈を晴らすようなふたりの脱出シーンは、脚と胸の筋肉の張りやスピード感など、生きる喜びに満ちて、胸がすく思いだ。

厳しくも美しい自然と人界の境界に彼らはいる

墨佳遼氏はゲーム制作会社のデザイナーを経て独立、人間や異形をエロティック、フェティッシュに描く画風で高い評価を得ている。漫画家としてはこれが初連載である。

ツンツンしていた小雲雀も、野山では初めて目にするものを前に年相応にはしゃぎまわり、時にお荷物になるのがかわいい。松風は頼りになる兄貴分、という感じだ

美しく迫力のあるシーンと、ギャグ調のシーンのメリハリが利いて、テンポよく読める。
特に3話以降の自然の描写はうっとりしてしまう。食べると害のある草、石を研いだナイフ、獣を狩り腑分けした肉。加えてオリジナルの生物や伝承が違和感なく共存し、読むうちに世界に没入していく感覚を存分に味わえる。

小雲雀が初めて知る、美しくも厳しい自然。夜の肌寒さや風の音まで伝わってきそうだ

自由に生きるとは、自由に走ること

人馬はむかし、「山神」とも言われ、崇拝の対象でもあった。
農村では「じんば様」と呼ばれ、人と人馬が共に暮らす時代もあった。

人でもなく、獣でもない、同時に「どちらでもある」彼らは、境界上にいるゆえに、社会の変化にたやすく翻弄されてしまう。
戦(いくさ)が人馬と人の関係を変えてしまったのだ。

単行本終盤では松風の妹・小梅も登場し、物語はさらなる広がりを見せる。
松風に頼りきりだった小雲雀も、少しずつ成長し、松風を助けるようになる。彼らは走る。生きるために。
続く2巻以降も怒涛の展開なので、ぜひWEBで追いかけよう。



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©墨佳遼/イースト・プレス