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魔王の首を狙うは幼女?正直幼女とダメ剣士の旅立ち『オオカミの子』佐々木順一郎

籠生堅太

「ほのぼの」の皮を被ったオオカミの子

「できるかできないかじゃなくて
やるかやらないかなんだよ」

人生で1,000回くらい言われた言葉。
投げかけられるたびにすり減って、今ではまるで心に響かなくなってしまった。

けど同じ言葉だったとしても『オオカミの子』のウル子ちゃんに言われたのならば、グサリと心に突き刺さる。

大人なら「わかっちゃいるけれど、でも……」と言い訳しそうなことでも、ウル子はきっぱりと言い切り、行動に移す

ギリギリなところで成り立ってる魅力

「ヤングマガジンサード」2017 VOL.1佐々木順一郎氏の初連載『オオカミの子』がスタートした。
ポンコツ剣士・ディンゴと「自分のやりたいようにやる」を徹底する幼女・ウル子の慌ただしい旅の様子が、佐々木氏の描くどこか懐かしいRPG的な世界で繰り広げられる。

ウル子、狙うは魔王の首。やると決めたら、やる。それがウル子の流儀

本作は「ヤングマガジンサード」が主催する新人賞「即連載杯」の受賞作。
受賞すれば「ヤングマガジンサード」での連載と単行本化が約束されるという、漫画家を目指す人にとってみれば、なんとも魅力的な新人賞だ。
同誌に掲載の『いに怪することなく、獣じつした日々』(野良しごと氏)『グレイプニル』(武田すん氏)も、「即連載杯」の受賞がきっかけで、連載を掴んでいる。

青年と幼女の2人旅と聞いて、ほのぼのとした絵面を思い浮かべた人がほとんどだろう。
けれどそれは勘違い。ウル子は、大人顔負けの超辛辣系幼女。

彼女の歯に衣着せぬ発言に、ディンゴも、街の人も、動物でさえもタジタジなのだ。

大人の真似をして背伸びした発言を繰り返す幼女に、よくない印象を持つ人もいるだろう。
それをちっとも感じさせないのが、ウル子の魅力だ。

その理由は2つある。
ひとつはウル子の言葉は、きちんと彼女自身から発せられているということ。

旅に出る理由は「魔王」を倒すため。
街の人からの信頼も厚く、なんならウル子の標的にされた魔王を心配する声すら。
誰も魔王の居場所を知らないなら、「とりあえず世界一周」と言い放つ行動力。

無益な血が流れる……。魔王討伐を引き留めようとする街の人々は、かつてウル子が何をしたか語ろうとはしない……

記事冒頭の台詞しかり、彼女の言葉は誰からの借りものでもなく、実際彼女が本心から思い、そして自らも心がけている言葉なのだ。

そんな大人顔負けな一面を見せたかと思えば、出店のチョコバナナをねだってみたり、パパの言いつけをちゃんと守っていたり、年相応の幼さもある。

「子どもなのに、かっこいいかも……」という憧れと、「子どもだからしょうがない」という諦めの合わせ技で、ちっとも嫌味な部分がない。

もうひとつは、ウル子から辛辣な言葉を投げつけられるディンゴの存在。
ただの剣士としてふるまっているが、その正体は魔王。
とある事情で人間界に身を隠している最中なのだが、こいつ本当に魔王なのかと疑いたくなるくらいのポンコツ。
なのでどんな叱責を受けようとも「かわいそう」よりも、「そうだ、ちゃんとしろ」という気持ちが先に立つ。

ウル子のキャラクターと、彼女とディンゴとの絶妙な関係性。
その2つのおかげで、一歩間違えたらお説教くさくなってしまいそうな物語でも、穏やかに読み進めることができる。

一気に全部がひっくり返る爽快感

物語はディンゴ(ツッコミ)とウル子(ボケ)の会話で進められる。
どんなにウル子がかっこよく、ディンゴがポンコツであったとしても、常識的なことことを言っているのはディンゴなのだ。

どんなにディンゴが、ウル子の非常識ぶりを指摘しても、彼女は耳を貸さない。街の人々もみなウル子の味方だ。
少しずつズレていく感覚、何が正しくて、何が間違っているのか、だんだんと曖昧になっていく。そして繰り出されるウル子のひと言。

「はい……」としか言えなくなる

自分の認識が一気にひっくり返る爽快感。これがクセになりそう。
2人の旅は始まったばかり。これからどんな名言、至言が飛び出してくるのだろう。

そして「即連載杯」は第3回開催にむけて、着々と準備中とのこと。
新しい才能が生まれる場所として、注目していきたい。



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©佐々木順一郎/講談社