読み切りレビュー
『ななめ後ろに三浦さん』9℃ 彼の背後を歩いてしまう、ストーカー女子の純情
たまごまご
うまく目が合わないふたり
いままで三浦さんが「ストーカー」として見ていたのは、朝倉くんの外側だ。
朝倉くんに許可を得て写真を撮った三浦さんは、「こっち向いてる写真はじめて」と言った。朝倉くんはムッとする。
自分が隣りにいるのに、彼女は今写真を見ている。
朝倉くんが三浦さんを好きになったのは、(彼を盗み見ていた)彼女と目があったから。
けれどふたりの視線は本当の意味では重なっていなかった。
ラスト、朝倉くんは三浦さんに後ろをついて歩くのをやめるよう言う。隣にいてほしいと伝える。
「俺だって 三浦さんのこと見たいんだから」
どちらか片方の感情ではなく、お互いの感情が尊重されてはじめてコミュニケーションは成立するものだ。
ふたりの歯車の噛み合い方が、写真と歩く位置で表現されていく。
ストーカーキャラならではの「かわいい」
三浦さんは、いついかなるときも盗撮している。
「朝倉くんのどんな顔も大好きだから」
そう言われていやな人はいないだろう。何げに朝倉くん、三浦さんのストーカー的価値観に何度か流されかけている。
三浦さんは朝倉くんに注意されると、すぐ直す。
誠実で一生懸命な性格。夢中になりすぎて暴走する行動。時々ぼんやりするマイペースさ。
彼女のキャラクターは、3つのバランスを取ることで、小動物的な「かわいい」の範囲にピタッと収まっている。
作者の9℃氏は、少年少女のディスコミュニケーションをコミカルに描くのがうまい。
「コミック電撃だいおうじ」で連載中の『放課後☆同盟』は、コミュ障気味な少女・伊丹さんと、誰にでも親しくできるように見せかけて裏表のある藤堂くんを描いた4コマ漫画。
「楽園WEB増刊」の『ナツキくんは今日もキレイ』は、女装した男の先輩に恋をした男子学生の物語。
どの作品も青春時代の、人と仲良くする苦労や、相手との距離のとり方の悩み。重たい話になりかねない部分を、絵柄と作風でふわっと軟着陸させているので、読んでいて心地いい。
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©9℃/集英社