明日発売の新刊レビュー
幸せそうな家族は、今日も誰かを殺してる『殺人鬼家族』雪狸/ぱるにわ
籠生堅太
人殺し達の恋と友情と愛情
美男美女ぞろいの赤川家。
けれどもその住人はもれなく殺人鬼。
善人も悪人も、大人も子どもも関係なく、彼らの前ではみな一様に肉塊と化す。
創作同人誌即売会・コミティアで発表されていた雪狸(せつり)氏とぱるにわ氏による赤川家シリーズ。
殺人鬼一家・赤川家のキャラクターを雪狸氏とぱるにわ氏がシェアし、それぞれの手法で描いてきたギャグあり、シリアスありのオムニバスストーリーが単行本となって明日12月27日に発売される。
どんなに血まみれでも、汚れない魂
臓器売買のためビジネスとして人を殺す兄、人体収集マニアの妹、おもちゃを壊すように命を奪う双子、自分の思う“悪人”は、生かしておけない父と母。
そんな曲者ぞろいの殺人家族の物語。どんなに血みどろな展開になるかと思いきや、直接的な残虐描写はほとんどない。
むしろ雪狸氏のシャープな絵柄で描かれた物語は、爽やかさすら感じるし、ぱるにわ氏は暖かいタッチでハートフルなストーリーを紡ぐ。
そんな不思議な魅力にあふれた1冊だ。
赤川家の人々は、みな殺しが日常の出来事になっている。罪の意識にさいなまれることもなく、今日もまた人を殺していく。
どんなに血と肉と臓物で周囲が赤黒く塗りつぶされても、その中心にいる彼女らは汚れることがないのだ。むしろまわりが黒く沈んでいくことで、キャラクターの内面が、際立ってくる。
それが色濃く表れているのは雪狸氏による人体収集マニアの赤川咲子と彼女のコレクションに加わりたい少女・白崎ユキのストーリーだ。
家族以外の人間を“モノ”としか見ることのできない咲子は、はじめてできた友人と呼べる存在に戸惑うことも。
しかしユキは、咲子の手にかかり、彼女のコレクションに加わることを望むなど、どこか心の欠けた少女だった。
“人を殺してはいけない”という道徳がまるごと欠如した咲子と、誰かの所有物になりたいユキ。
歪な2人だが、咲子の“大事な人にどう接していいのかわからない”という悩みや、ユキの“大切な人に所有されたい(近くにいたい)”という衝動は、読者も経験したことがあるだろう。
死に囲まれた日常とはかけ離れた場所でも、彼女達が抱く悩みは、ごくごくありふれたものなのだ。
普段なら見逃してしまいそうな心の動きが、非日常のなかで色濃く浮かび上がってくる。
人殺しの幸せを願うことは罪?
雪狸氏が赤川家の住人と外部の人々とのどこか張り詰めた交流を描く一方で、殺人一家のゆるい家族の風景を柔らかく描くのがぱるにわ氏。
一瞬一瞬の感情を印象的な台詞とカットで描き出す雪狸氏に対して、ぱるにわ氏は1ページまるごとを使って心の動きを表すような表現が印象的。
ぱるにわ氏が描いたストーリーは、人殺しの姿を描いているのに、どこか心が暖まるような不思議な読後感。
とくに4人の殺人鬼を育て上げた赤川夫妻の出会いは、誰も死なない普通の恋愛ものよりも健やかなくらい。
恋していた少女を誤って殺してしまった誠二と目にうつるすべてが歪んで見える美咲。
誰とも何も共有することのできない、圧倒的な孤独のなかに生きていた2人が、互いを見つけ、寄り添ってい生きていこうとする姿は、いつか自分にもそんな人が現れるかもという希望を与えてくれる。
彼らの罪は許されないものだろう。全員が地獄に落ちると思う。
それでも赤川家の人々が、幸せを目指すことを、つい応援したくなってしまう。
©雪狸・ぱるにわ/一迅社