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『ほとんど路上生活』川路智代 DV父から逃げた先は扉のない宴会場

川俣綾加

フラットでポップな表現で隠された感情

こんな環境で生活した著者の心情はいかばかりか。想像はするものの、ページから伝わってくるのはからりとした明るさと、人々の状況を遠巻きに見つめているような箱庭感だ。

身に起きた出来事を描くにあたって、「日給500円で雇ったトモちゃん」というキャラクターに自身を演じさせている。

著者の川路智代氏と、中学生時代の彼女を演じる「トモちゃん」というキャラクター。ふたりのやりとりも本作のみどころのひとつ

話のはじまりと終わりには著者とトモちゃんが語り合うページも用意されており、平安・鎌倉時代の絵巻物に描かれているような雲で話の幕開けと幕切れを表現していく。

登場する場所がほぼ宴会場、もしくは昼逃げ前の家だけであることも重なって、出来事を追体験するのではなく、「生活」という箱を上からのぞきこんでいるような感覚になるのだ。

加えて特徴的なのが絵柄オノマトペ
日本画、少女漫画やギャグ漫画……それも、1970年代ものに見える。様々な要素をミックスした絵柄は時代感がなく、作品を際立たせ忘れられないものにしている。

人によっては受け入れがたいほど壮絶な話だと思うが、読み心地は驚くほど軽い

オノマトペは、例えば筆ペンで「ザンッ」と書くか、ゴシック体で「ザンッ」なのかによって音の質感やシズル感が異なる。同作では全てがオノマトペがフォント打ちっ放しのような文字だ。

これらが、からりとした明るさや絶望感の薄さにもつながるのだが、あくまでそれらは著者の取った手法によって感情を見せないようにしているからだと思う。

向こうの状況は見えているのに、吹く風は穏やかなのか、それとも嵐なのか、分厚いガラスに触れる手からはわからない。作者の中にいま現在どんな感情が渦巻いているのか、からりと描かれているからこそ読者は想像するほかない。
厳しい現実が、明るくフラットに描かれているからこそ、壮絶さが引き立っている。

単行本発売を記念してyomina-hareでは、著者・川路智代氏にインタビューを刊行。近日公開予定、お楽しみに!!



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©川路智代/エブリスタ/小学館クリエイティブ