明日発売の新刊レビュー
『ファラ夫』和田洋人 エジプトのファラオが蘇り、国分寺でアパート暮らし
小松良介
ファラ夫パイセンから漂う圧倒的庶民感
たしかにファラ夫の登場シーンは強烈だった。連載当初は謎めいた存在として奇怪な言動が目立ち、吹き出しには象形文字が溢れかえっていた。当然、調査員たちは怯え惑っている。
でも、第7話で本人自ら「オレも気がついたら一発屋芸人の扱いだった…」と心境を吐露したように、どんなに異様なキャラクターもいずれは飽きられてしまう。
作中のファラ夫も例外でなく、コンビニバイトをしながら狭いアパートで庶民的な生活をすごすことに……。なぜか「漫画家になる」という夢を追いかけながら。
もう、こうなってくるとファラ夫の見た目は『アフロ田中』シリーズでいうアフロみたいな、些細なチャームポイント程度でしかない。
存在しているだけでジワジワくる
とはいえ、読者はそうもいかない。
無表情のファラ夫が当たり前のようにタバコをふかしたり、マスクのアゴひげがスマホになったり、銭湯でのマナーに厳しかったり、歯医者で虫歯治療をされたり……。そんな光景を見せられてツッコまずにはいられない。
そうか、これは完全にコントの世界だ。
テーマはあくまで身近なもので、そこにファラ夫が緩急とギャップを作りながら笑いを生み出していく。それもこれもファラ夫というキャラクターが見た目・性格ともに確立されている賜物だろう。
ここまで来れば、この先たとえ再び眠りについて未来編が始まろうが、ファラ子なるヒロインが出てこようが関係ない。ファラ夫がいるかぎり安泰だ。
彼の一挙手一投足に悪態をつきながらもニヤリとする他にない。
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©和田洋人/講談社