明日発売の新刊レビュー
『ふたりぼっち戦争』肘原えるぼ 希望の前進 VS 恐怖と破滅の物語
川俣綾加
人間を“ロボット”として操作する葛藤
ユニットは、“ロボットもの”におけるロボットだ。ロボットの操作手は、仮想的に自分の肉体を拡張し巨大な敵と戦う。そしてそこに生まれる葛藤や関係性の変化、成長は、物語における“うまみ”になる。
歩くことができなかったイリヤがアルカナを用いてユニットと同調、肉体を拡張することで、忘れていた感覚を取り戻す。同時に、この世界はとても美しく守るべきものであることを打ち震えながら感じ取る。それはアンナの想いでもあり、イリヤが地球を守る理由のひとつになるのだ。
イリヤにとって念願のプレイヤー。けれどもその代償として、姉を戦闘の前線に送り込み、命の危機に晒すことになる。ユニットと化したアンナは体の一部であれば損傷しても再生はできるが、頭部や心臓を破壊されれば蘇生はできない。戦闘においては常に死が隣人だ。
イリヤが自在に動き世界を知ること、希望を獲得していくこと。それはアンナの命をかけた上で成り立っているのだ。
生身の人間を遠隔操作し敵と戦わせることは、純粋なロボットの操作とは違った苦悩を生むだろう。
無償の愛はイドラに勝てるか?
アンナを危険に晒して戦闘を続けるというのか?
ユニットがアンナであることを知ったイリヤは、アンナを失う恐怖、そして未知なる存在との戦闘の恐怖に侵食されていく。ユニットにプレイヤーの家族が据えられることは機密情報で、プレイヤーズ試験合格後にしか知らされないが、アンナはイリヤが試験を受けている段階ですでに知らされていた。
「イドラのいない世界になったらふたりでいろんな場所に出かけよう」
アンナがユニットになる覚悟を決めた理由は弟との約束があったからだ。
両親を失ってから、弟の生活の全てを支えてきた姉。アンナのイリヤに対する無償の愛は、イリヤの恐怖を打ち消し背中を押すに十分なものだった。
弟への無償の愛と、姉の愛を受けた弟の希望への前進。
地球を守る騎士となったふたりの約束は果たされるのか。
物語はまだ始まったばかりだ。
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©肘原えるぼ/集英社