明日発売の新刊レビュー
町に現れるヒーローの正体は、ポンコツ女子中学生『アメイジング★あめいじんぐ』eno
籠生堅太
女子中学生がヒーローとして過ごす日常
わりと平和っぽい街・ガムシティ。
たまに現れては些細な悪事を働くヴィラン(怪人や犯罪者)から街の人々を守るわけでもなく、中途半端な能力を中途半端に駆使するヒーロー達がいた。彼女達はアルティメットリーグ。その正体は、どこにでもいそうな女子中学生だった。

本人達があらすじを偽るほど、事件らしい事件は何も起きない
WEBコミックサイト「コミックガム」に掲載されていたeno氏の初連載作品『アメイジング★あめいじんぐ』の単行本が本日4月25日に発売された。
『アメイジング★あめいじんぐ』第1話が掲載された2015年7月号をもってして「コミックガム」の前身であった雑誌「月刊コミックガム」は休刊。「休刊号でデビュー」というショッキングな出来事から2年、満を持しての単行本発売である。
ポンコツ女子中学生ヒーロー
どこにでもいそうな女子中学生・軽江(かるえ)るぅ。彼女はある特殊能力の持ち主だった。浮くのだ、10センチくらい。まったく役に立たない!
しかしそんな彼女の能力を欲したのが、町内平和を目指すヒーローチーム「アルティメットリーグ」、メンバーはるぅと同じ中学に通う生徒達だ。

コスチュームに身を包み、外見だけならヒーローっぽいが、口を開けば中学生
日替わりで体のどこか一部がゴムのように伸びる星見(ほしみ)リカ。
父はマジシャン、母は黒魔術師。その両方の特性を引き継ぐ引田駒子(ひきた・こまこ)。
家族全員ヒーローで、すごいスピードで移動ができるけれど、脳みそ空っぽな早杉(はやすぎ)ひかる。
どこか残念な彼女たちに押し切られるかたちで、るぅもアルティメットリーグの一員となる。
「町の平和」はオマケ
リーダーであるリカが「部長」と呼ばれているように、アルティメットリーグの実態は「正義の味方」というよりも「中学校の部活動」だ。それは彼女達のヒーロー活動へのスタンスにも見て取れる。
「正義を守る」ために戦っているのではない。「ヒーローでいる」こと自体が彼女たちの目的なのだ。
だから『アメイジング★あめいじんぐ』はヒーローの物語じゃない。女子中学生の日常なのだ。
目的と手段の逆転。
試合に勝ったり、コンクールで上を目指したり。何かの目標に向かって全力で打ちこむ部活動も当然尊いものだ。
けれど部活帰りの買い食いだったり、部活の友達とどこかに遊びに行ったりすることばかりが楽しくて、肝心の部活動のほうがオマケのような学生時代を過ごした人も少なくないだろう。
アルティメットリーグのみんなと楽しく過ごしたい。ガムシティの平和よりも、そちらのほうが大きく感じる。

炎を操るヴィラン、レディ・フランムと何故か同じバイト先に。ヴィランもヴィランでバイトしなきゃ生活できないというヘッポコっぷり
深夜の学校のパトロールも、桜の季節に人混みを警備したのもの、言ってしまえば肝試しにお花見だ。
コスチューム代を稼ぐためにバイトだってするし、プライベートではヴィランとだってお喋りしてしまう。
ヒーローであり続けることは、るぅたちの「とびきり楽しい放課後」なのだ。
謎のパワーをもった隕石のせいで分裂してしまったり、初詣に現れたヴィランを退治したり、ひったくりを捕まえたりと、ヒーローっぽい特別なこともしている。あとガムシティには、なぜかやたらとゴリラが出現する。

何故か頻繁に登場するゴリラ。どこにあるのか、ガムシティ……
そんな特別なイベントを挟みながらも、可愛い女子中学生の日常はつづく。
ただただ楽しそうな彼女たちを眺めていると、ちょっとだけ心が軽くなる。そんなふうに読者の心を救ってくれるのも、アルティメットリーグのヒーロー活動のひとつなのかもしれない。
ワニブックス (2017-04-25)
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当初、4月24日の記事掲載を予定しておりましたが、編集上の都合により4月25日の掲載となりました。記事企画名と記事内容に齟齬があること、謹んでお詫び申し上げます。
©eno/ワニブックス コミックガム