明日発売の新刊レビュー
安倍川「バターチーズガール」女子高生たちのおしゃべりは日常とカオスを行ったり来たり
たまごまご
無軌道なおしゃべりのなかに、カオスへの扉が潜んでる
大学生にしか見えないツッコミ役曳馬(ひくま)ゆう、中学生にしか見えない猪突猛進お馬鹿さん伊場朝華(いば・あさか)、小学生にしか見えない驚きの妖精体型鴨江真昼(かもえ・まひる)。
3人の高校生の共同生活……あっ、違う、4人? ……なんかおかしいぞ?
一応は人知の範囲内の女子高生の生活を描いているはず。
なのだが、時折その歯車をしれっとずらしてくるから、油断ならない。
会話劇とシュールのハイブリッド
ベースは、アクの強い面々が繰り広げられる日常コメディだ。
朝華はいたずらばかりで、迷惑な行動を繰り返しては、ゆうに怒られている。
ゆうが大好きすぎる生徒会長常盤真夜(ときわ・まや)は、ストーキングを行い、ゆうを悩ませている。
美大生の龍善寺(りゅうぜんじ)は、モデルと称してセクハラ行為を働いて、ゆうを困らせている。
……がんばれ曳馬ゆう。
ボケ多数とツッコミ少数。会話はテンポよく進む。
ただふとした瞬間に、理解のできない展開が飛び込んでくる。
なかでも、研究員・海老塚(えびづか)の存在は異彩を放つ。
海老塚(24)は、どっかの研究所に所属しているらしい。どこだ?
3人が引っ越して来た部屋にいつの間にかいて、大家さんとの謎交渉の末、3人+1人の生活が始まってしまう。
5話まで海老塚同居問題を描いているものの、6話では1コマも出ない。みるみるうちに空気と化していく。
と思ったら割とめんどうなタイミングで出現、会話を荒らす。
ポンコツ生徒会長・真夜が、ゆう目当てに家に上がり込んできた時。
「これは、天気予報のマシンなのだよ」と何の脈絡もなく会話に割り込む。
こんなのが繰り返されるから、ゆうも「ほんっと唐突に話に割り込んできますね、海老塚さん……」と困惑。
海老塚はその後、毎月60万、謎の稼ぎを生みだして3人の生活に大きな影響を与える。
これがあまりにも不可解すぎて、海老塚のキャラをつかめないものにしている。
ゆうや朝華、真夜の会話は、会話劇として成立する範疇。
海老塚は、会話が成立せず、物語を乱す。
この「日常」と「シュール」の塩梅がとても気持ちいい。
2つの中間地点にいるのが、鴨江真昼だ。
鴨江真昼の異常な存在感
ひとりだけものすごく背が小さく、表情があまり変わらない真昼。
変化球なキャラだ。一概になんらかの「配役」ではくくれない。
多人数でいる時、彼女は俯瞰した意見を述べる。
みなの意見を聞いた時に、ぼそっと真昼が総括する。
誰かがボケて会話が一段落したあと、二段目のオチとして口を挟む。
一番常軌を逸した行動を取るのも彼女だ。
ソシャゲを始めた真昼。ガチャで35万使い果たしてしまう。
近所の子どもたちを手なづけて、頂点に君臨したこともある。
これは真昼が、他のキャラとの兼ね合いで、流動的に動けるからできる展開。
ゆうを始めとした常識人が固まると、彼女はある程度狂った行動に出ても、成立する。
まわりのキャラが狂気的な場合、場をうまくおさめるような、引いた距離に移動する。なお海老塚には、あまり近づかない。
「ボケ・ツッコミ」「日常・シュール」のスイッチング。
真昼の立ち回りは、作品のカオスな状況を整理する鍵になっている。
「バターチーズガール」は、増えていく人物との兼ね合いで、人間関係がコロコロと相対的に変わっていく。
キャラはどんどん、イキイキとしていく。
KADOKAWA (2016-11-10)
売り上げランキング: 5034
©安倍川/KADOKAWA