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新人賞レビュー

『放課後ていぼう日誌』小坂泰之 女子高生、イカを釣りに YCコミック杯受賞作

川俣綾加

『龍の歯医者』キャラクターデザイナー、新人賞を獲る

第2回ヤングチャンピオンコミック杯にて準入選賞を受賞した、小坂泰之氏『放課後ていぼう日誌』が、本日12月20日発売の「ヤングチャンピオン烈」に掲載された。

小坂氏は2014年、日本アニメ(ーター)見本市で公開されたショートアニメ『龍の歯医者』でキャラクターデザインを担当。それまでは個人でPixivなどで活動していたが、同作によってその名が知れることとなった。

『放課後ていぼう日誌』では改めて、小坂氏の描く世界の魅力を知ることができる。

緻密に描かれた風景のあちら側とこちら側

舞台はとある海沿いの田舎。海野高校「釣り部」の女子4人は、部長の号令で春イカを釣りに行くことに。
のどかな風景とゆるく流れる空気、そして彼女たちの喋る方言が心地いい一作だ。

読者はこの作品の最初のページを目にしただけで、ここがどんな場所なのかすぐさま理解できるはず。なぜこんなにも「世界」が一瞬にして伝わってくるのだろうか。

手前にひな、木、小屋を配置し、奥には堤防と連なる山々。電線が遠近感を演出している。セリフは0でも舞台のすべてが説明されているのだ

それは風景のあちら側とこちら側が緻密に描かれているから。
広角レンズをのぞきこんで撮影したかのように、奥行きがあるのだ。

女子高生たちと一緒にそこに立っている感覚になる

記事冒頭の画像。
堤防の上、手前に人が立ち竿を構える姿。奥には灯台がそびえ立ち、スカッと晴れた空。たぷたぷと揺れる水面。一見シンプルなようでたった1コマでこれだけ情報量がある。

消波ブロック、水平線、山と距離感を伝える三つの描写が巧み

圧巻なのが、堤防に立って湾に広がる水平線を眺めるひなの後ろ姿が描かれたコマだ。どれほど空が高く海が広いか、そして陽の射し方から時間帯まで想像が広がる。

四角く区切られているのに、無限の広がりを感じるような一コマ

こうした広がりを巧みに表現したかと思えば、家屋から釣り道具にいたるまで細かな描写もすさまじい。
特に注目したいのは彼女たちの靴。これだけで、一人ひとりの個性がはっきりとわかる。

靴が違う。たったそれだけでも、彼女達を少しだけ深く知ることができる。そうやって20Pの短編のなかで、キャラクターに個性が生まれる

女子高生のゆるやかな日常の近景と遠景。
そこに世界があり、読み手は彼女たちと一緒に立っている感覚になる。『放課後ていぼう日誌』は、それを体感できる漫画だ。この先も小坂氏がどんな世界を生み出し続けるのかが楽しみでならない。



試し読みはコチラ!

©小坂泰之/ヤングチャンピオン烈 2016