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単行本レビュー

『夢中さ、きみに。』和山やま 男子高校生のフフッとしちゃう日常に引き込まれてゆく

根本和佳

ずっと真顔の男子、かわいくないですか!?

自然体すぎる子、自分を偽って過ごす子。もの静かな男子高校生たちが愛おしくなる日常には、ちょっとだけ“怖さ”が隠されている…!?

『夢中さ、きみに。』は、WEBや同人誌で発表された作品(ワヤマ名義)に描きおろしの続編を加えた、著者初の商業単行本だ。

ギャグなのか、もしかするとホラーなのか

「ひょうひょうとしている」を通り越したレベルで自然体な林くんと、彼に関わる生徒たちのやりとりを描くシリーズが半分。
関わるだけで不幸になると噂される不気味な二階堂くんと、そんな彼がなぜか気になってしまうクラスメイトの目高くんの交流を追う「うしろの二階堂」シリーズが半分、という構成になっている。

まず、男子の前髪が美しい。柔らかいタッチと無駄のない構成に乗せた、流れるようなセリフ回しにたびたびクスッとさせられる。真顔でシュールなギャグを放つ男子がかわいい。
ちょっとだけ懐かしさを感じさせる小ネタやパロディは、この作品がカバーする年代の広さを物語っている。表情豊かな目で語る男子たちが、みんなかわいらしく見えて、だんだんこの空間が愛おしくなってゆく。

しかし。
『夢中さ、きみに。』で描かれているのは、学生時代の濃密な日常の一幕ではあるものの、誰もが経験するようなありふれた出来事ではない。それでいて「なんか知ってる」という感情を呼び起こす。ときには過ぎ去った日々へのノスタルジーや、もの悲しさまで感じてしまう。

ちょっと不気味だ。ギャグのようで、もしかするとホラーなのか。そんな境界にいる気分になる。なぜだろう。

あるがままを許容された心地よい空間

高校生たちは、会話が噛み合わずズレていても、お互いそのまま流していく。おかしな行動をしていても、とりあえず見守る。脳内では饒舌なツッコミが噴き上がっても、強く伝えることはない。相手に多くを求めないコミュニケーションには抑制が効いていて、ときに禁欲的ですらある。

そうして、あるがままを許容することで生まれた心地よい空間に、読者は没入してゆく。読者は“傍観者”として作品の中に入り、林くんや二階堂くんの魅力にからめ取られてゆく友人たちの姿を見て、フフッと笑ってしまう……のだが。

彼らはあなたのクラスに、本当にいた気がしないか?
林くんの声をいつも聞いていた。二階堂くんをこっそり目で追っていた。
そんな記憶が、頭の中にないか…?

いつの間にか彼らは、読者の記憶の中に居座っているのだ。不気味さと懐かしさの正体は、熟達したアサシンのような間合いの詰め方だった。

和山やま作品の男の子たちは、「人たらし」だ。



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