単行本レビュー
『うもれてきえた』やまだはるか 女子高生漫画家が描いた5つの生と秘密
武川佑
秘密をかかえて、強く生きよ。
少年と中年男。血のつながらない絆と、母の弔いを描く表題作。
コミカルなチャイナ娘と、引っ込み思案な青年のドタバタ婿取り。
人斬りと化け狐の、優しく、哀しい邂逅。
昨年、17歳(現在は18歳)で持ち込みをした「チャオの花嫁」で新人賞を受賞し即デビュー。高校に通いながら毎号「ITAN」で作品を発表しつづけたという恐るべき新鋭・やまだはるか氏の初短編集『うもれてきえた』は、漫画の楽しみがギュッとつまった、玉手箱のような短編集だ。
5篇の物語の根底に流れるのは――生きることへの、ひたむきな憧れ。そして、秘密。
胸をえぐる、表題作をまず読もう
お江戸にアラブ世界、中華、そして現代日本など、舞台のモチーフは多様だ。
さまざまなキャラクターたちが織りなす5つの短編は、どれも胸をさす「力」に満ちている。
まずは18歳という情報を頭から消し去って、作品を楽しんでほしい。
まず表題作「うもれてきえた」に深く胸をうたれる。
高校生の隆幸(たかゆき)と中年サラリーマンのケンさんは親子のように暮らしている。
雪のある日、道端でみすぼらしい中年女性とすれ違ってから、隆幸に起きる異変。
女性は、一体誰なのか――。
読んでいて、足首をつかまれるような気がする。顔の見えない「誰か」の気配を感じるのだ。なぜ彼女は隆幸の前に現れたのか。
海辺での慟哭のシーンは読んでいて苦しくなるが、ラストシーンは、新たな出発の予感がして救われる思いだ。
変幻自在な玉手箱のような作品たち
私が好きなのは、格闘技の達人であるキュートなチャオの婿取りを描く「チャオの花婿」、化け狐の切ないまでの思慕とすれ違いを描いた「化け物が一匹」の2篇。
どちらも、ある人に興味を抱き、恋いこがれたり、寄り添ったりする話だ。だが結末はまったく異なる。
限られたページ数で、コメディも、切ない話も、変幻自在に描いてみせる。感嘆するうちにもうページが尽きる。もっと読みたい! と焦がれてしまう。
「チャオの花嫁」でデビュー以降、やまだ氏は「描くのが楽しくてたまらない!」とばかりに、毎号「ITAN」に読み切りを発表してきた。
次はどんな絵に、物語に出会えるのだろうと、読む方もワクワクするのだ。
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©Haruka Yamada/講談社