明日発売の新刊レビュー
『凛とチア。』山田シロ彦 チアリーディングとLGBTをからめた王道部活もの
武川佑
自分が本当にやりたいこと、なりたい自分
ある新連載の1話目がネットで反響を呼んだ。
性同一性障害を、チアリーディングにからめたストーリーは、実に「今らしい」と私も感じた。
しかしただ話題性があるだけでない。この作品には、「楽しめるものと出会う喜び」という普遍的なテーマが描かれているからだ。
「ヤングジャンプ」での連載開始と同時に大きな注目を集めた山田シロ彦氏の『凛とチア。』の第1巻が、明日11月17日に発売される。
チアリーディングという競技に、ひたむきに取り組む主人公の春野凛太郎(はるの・りんたろう)が、読んでいてとても気持ちがいい。
王道の部活動ものとして、主人公たちを応援したくなる作品だ。
集英社 (2017-11-17)
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話題を呼んだ、センセーショナルな第1話
物語は凜太郎の小学生時代の思い出から始まる。
仲のいい春野兄弟は元日本代表のチアリーディングチームの演技を見て、圧倒される。母子家庭の自分たちの家にはない笑顔が、彼らの演技には溢れていた。
自分たちの演技を見せ、母に笑顔になってもらおうと、ふたりは秘密の特訓を重ねる。
そのなかで兄・修斗(しゅうと)は、自分自身の性に違和感があることを凜太郎に打ち明ける。
母に笑顔になってほしい、兄の思いを認めてほしい。
だが、ふたりの気持ちは無残にも、踏みにじられてしまう――。
それはあまりにも辛いシーンで、ショックを受ける人もいるかもしれない。
このシーンまでに、兄がクラスメートに淡い恋心を抱き、そんな自分を責めたり、母への思いやりや、弟にカミングアウトしたときの戸惑いなどが、丹念に描かれる。
切ないまで自分の感情を押し殺す兄・修斗(しゅうと)に、凛太郎と一緒に、無邪気に「お兄ちゃん頑張れ!」と思って読んでいた。
しかし修斗を待っていたのは、母の拒絶。
受け止められずにパニックに陥るお母さんの、彼女の子どもを思う気持ちも理解できる。父親がいないなかで、息子たちを育て上げようとすることは、常に大きなプレッシャーだったのだろう。
そして修斗は家族のもとを去る。追いうちをかけるような残酷な展開が、つらい。
それでも凛太郎はチアをすると誓う。
いつか兄が見つけてくれるような、すごいチアリーダーになって、笑顔を届けられるように。
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©山田シロ彦/集英社