新連載レビュー
小鬼36℃『東の空が白むころ』田舎女子の友愛と音楽と青春を浴びろ
武川佑
青春にもがき、ベースを手に恋をする。
きっと何度も傷つくだろう。毎日、東の空が白むように。
朝は来る。だから何度でも立ち上がり、そしてまた、恋をする。
息苦しい高校生活に音楽があるという救い。
新書館「WINGS」12月号(10月28日発売)に、小鬼36℃(こおにさんじゅうろくど)氏の初連載『東の空が白むころ』第1話が掲載された。
著者は、バンド青年・茎太と幼なじみの陸上女子・茎子の、ひりつくような青春と恋を描いた『あの日、世界の真ん中で』で商業誌デビュー。
小鬼36℃『あの日、世界の真ん中で』鬱屈した青春の熱量を、音楽にのせて解き放て。
『東の空が白むころ』は『あの日、世界の真ん中で』と同じ高校の、軽音部が舞台である。
高校2年生の滝本ハルナは、クラスではひっそり目立たぬよう生きている。
少しでもスキを見せたら仲間はずれにされてしまう、狭く息苦しい世界。クラスは檻のようだ。
ハルナには別の居場所がある。軽音部だ。
軽音部では、『あの日、世界の真ん中で』の主人公・茎太がギター、ハルナがベース、部長がドラムスとなって、スリーピースバンドを組んでいる。
ここでは自分をさらけ出せる。異端性を個性と面白がってもらえる。人間椅子やeastern youthといったメタルやハードロック、パンクのバンドを愛する感性を共有できる。
部活シーンでは、普段クールなハルナがふにゃんとしたり、三白眼になったり、先輩相手に中指を立てたり自由にふるまう。
ユルい空気感が伝わってきて「部室でだらっとしている感じ」がとても心地いい。
「私が楽しい時は、…先輩らとばかやって、音楽やってる時だけ」
と、唯一仲のいいクラスメートの佳代にうち明けるハルナ。
直後、「…あと…」と口ごもる。
友情と愛情のはざまで
「私にとって 友愛は鋭利な刃物だ」とハルナはモノローグで語る。
ハルナのよき理解者であるクラスメートの佳代は、大きな眼鏡がかわいい文系少女。
ガールズ・トークのノリで、生まれるはるか前に結成されたロック・バンドについてハルナと佳代がキャッキャと語りあう姿がとてもカワイイ。
2人は気の合う友人だが、ハルナは佳代に友情以上の感情を抱いている。
ハルナは自分の好意をひた隠しにする。
かつて同じように好意を寄せた友人から投げつけられた「ありえへん、頭おかしい」という言葉のナイフが、ハルナの心を深く傷つけたからだ。
この恋は決して叶わない。優しい佳代に想いを告白したらきっと苦しめてしまう。
けれどしのぶ想いを殺すことはできない。惑い、ときに先輩たちに泣きつくハルナの純粋さが苦しい。
土曜日に迫る佳代とのおでかけの約束。
日曜日の卒業ライブ。
波乱の予感がする週末が待っている。
イキがってカッコつけて、玉砕をも覚悟で、もがきながら青春にあらがうハルナの、キラキラとまばゆい美しさよ。
読む側も「青い時代」を思い出す、焦燥感に満ちた、鋭い作品だ。
初単行本『あの日、世界の真ん中で』は、11月25日ごろ発売予定。
鮮烈な青春のきらめきを「浴びて」ほしい。
新書館 (2016-11-25)
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©小鬼36℃/新書館