新連載レビュー
『しもべ先生の尊い生活』我妻命 二次元に全てを捧げる美術教師の果てしない妄想
籠生堅太
美人教師、二次元に愛を捧げる
愛が深すぎる人の情熱や言動は、ときに常人の理解の範疇を軽く飛び越える。
それは嘲笑の対象になることもあるが、愛情により深く深くうがたれた場所に生きる人々に、私たちの言葉は届きもしない。
深淵に生きるものは、覗き込むものを見つめ返したりなどしない。やつらは自分の推ししか見てないからだ。
「マガジンエッジ」に第1話が掲載され、2話以降はPixivコミックで限定配信される我妻命(あがつま・みこと)氏の新連載『しもべ先生の尊い生活』。
推しキャラ・ベアトリスクス様を日夜想い、慕い、敬いすぎて、心がまったく落ち着かない美人教師・下辺紅子(しもべ・こうこ)の、ちょっとどうにかしてる脳内を覗き見るコメディだ。
深すぎる愛情は、狂気と見分けがつかない
作中で連載6年、単行本は11巻、2年前にはTVアニメ化もされた人気漫画『滑空のレジスタンス』。そのキャラクターのひとり、女神ベアトリクスがしもべ先生の想い人だ。
しもべ先生は、赴任の挨拶をしながらでも、絵のモデルをしながらでも、とにかくもうベアトリクス様のことが気になってしょうがない。主に乳首が気になってしょうがない。
これまでも趣味に生きるディープな人々を描いた作品はあった。
連載中の作品でいうと「コミックリュウ」掲載の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(平尾アウリ氏)など。
金も時間もすべてを推しにつっこむドルオタの姿は、本人が切実であればあるほどギャグになる。
『しもべ先生の尊い生活』がユニークなのは、彼女の愛が他人への布教や、グッズへの重課金など目に見えるような形ではなく(すでに通り過ぎたのかもしれないが……)、ひたすら妄想として描かれることだ。
彼女の愛が行動として発露するならば、誰かがそれを止めるかもしれない。
けれど彼女の頭のなかで繰り広げられるものには、何人たりともブレーキをかけられない。純度100%の愛情を加速しつづけると、もはや狂気と見分けがつかない。
本当にくだらないのだけれど、彼女の深すぎる愛に謎の感動を憶えてしまう。
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©我妻命/講談社