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次期魔王、人間界で保育士を目指す『僕達の魔王は普通』中村朝

籠生堅太

光と影を抱きしめて、次期魔王は保育士を目指す

家を継ぐとか継がないだとか、どこにだってある話。魔界にあっても不思議じゃない。
そのうえ言い出したのは次期魔王。魔王ったら「世界はわしのもの! 異論は認めません!」みたいな人でしょ?
そんな“わがまま of わがまま”の卵だったら、何を言っても驚かないよ。
ところで次期魔王辞退して、何になりたいんだい?

突然の保育士目指す発言。志も高い。やはり王になることが約束されたものは、器の大きさを感じさせる

おい! タイトル詐欺か、全然普通じゃねえぞ!

保育士を目指す次期魔王・イザークと周囲の人々を描いたコメディ『僕達の魔王は普通』の連載が「ガンガンONLINE」でスタートした。現在は第3話まで配信中。

著者は中村朝氏「yomina-hare」でも取り上げた今夏の「コミティア即日新人賞」で「モーニング・ツー」優秀賞を受賞した、当メディア注目の作家のひとりだ。




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次期魔王のゆずれない願い

さていきなりの「保育士目指す発言」をブチかましてくれた、崇高なる魔界の王が嫡男・イザーク。
どこらへんが「普通」なのだろうか。

このままだと「普通警察」が出動して、

「これは普通じゃないですねー」
「普通に謝れ」
「普通経験者の俺からしたら、異端」

など叩かれまくってしまうかもしれない。

イザークは、生まれながらに魔界の王になることが約束されていた。
そのため幼き頃より、帝王学をはじめ様々な教育を受けてきた。
周りの期待に応えんと、必至に努力を重ねてきた。それがずっと重荷だった。

血の繋がった弟も、幼い頃からの教育係も、人間界で出会った人々も、みな「イザーク」という個人ではなく、「次期魔王」という肩書でしか彼を見ようとしない。

親の敷いたレール、まわりからのプレッシャー、肩書でしか自分を見てくれない人々……。
知っている。私は知っているぞ、その辛さ……そしてそれは、多くの人が感じることだ。

認定! 次期魔王は「普通」です!

子ども達だけが、イザークを「イザーク」として接してくれた。

子ども達と出会った日。それは「次期魔王」という仮面<ペルソナ>を脱ぎ捨てられた、イザークの新しい誕生日なのかもしれない

自分自身を見つけてくれた、大切な子どもたちのために頑張ろうとする姿、それもまた「普通」である。

こんな魔族、キライになれない

魔王が保育士を目指す。

そのギャップは大きな魅力を生みだしているし、魔界と人間界の異文化コミュニケーション的な側面もこの作品は持っている。

『桃太郎』を園児に読み聞かせても、つい鬼の方に感情移入してしまったり、子どもから受け取ったドングリを人間界の通貨と勘違いしてしまったりする。

けどそうした部分よりも、イザークの「保育士になりたい!」というピュアさが眩しい。
王子として大切に育てられたからなのか、それとも彼がもともと持っていた素養なのかはわからないけれど、びっくりするほど真っ直ぐなのだ。

魔族である自分に保育士は務まらない。みんなにできることが、自分にはできない。

弟・ルキフェルから投げつけられた言葉で、給食が食べられずに泣いていた園児・あっくんの気持ちを知ることができたイザーク

イザークが保育士になることを拒む弟・ルキフェルとの戦いの最中でも、つい子どもたちのことを考えてしまう。

イザークの心は「保育士」だが、まわりは彼を「魔族」としか見てない。
いつだって会話は噛み合わない。そこでいちいち立ち止まらずに、グイグイと前に進んでいくイザークの強引ともいえる前向きさで、話が引っ張られていく。
そのスピード感がクセになる。

昨日、配信がスタートした第3話ではイザークの教育係だった魔族・ロクサーヌが登場。
キャラごとに微妙にイザークとの掛け合いに変化があって、これからどんなイザークのいち面が見られるのか楽しみ。
「普通」な次期魔王の、ちょっとおかしな保育園のでの日々を見守っていきたい。

しかしイザークは「攻略サイトで『ムダに強い』と書かれてしまう強キャラ」くらいの強大な魔力を持つらしい。
そんな彼を保育士へと導いた園児・あっくんこそ、真の勇者なのかも。



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