読み切りレビュー
『読了まであとどのくらい』たいぼく 私の価値は、貴女の価値は?百合色の火花散る
一ノ瀬謹和
ギスギスして、ズシッと重たい百合
「人生は一冊の書物に似ている。馬鹿者たちはそれをパラパラとめくっているが、賢い人間はそれを念入りに読む。なぜなら、彼はただ一度しかそれを読むことが出来ないのを知っているから」
――とはドイツの作家・ジャン・パウルの言葉だ。
もしも、人間が一冊の書物であるならば、自分という書物は果たしていかなる価値を持つ本なのか――。
「少年ジャンプ+」で読み切り『かいじゅうのつかいかた』を発表し、漫画ファンの注目を集めた新人作家・たいぼく氏の新作『読了まであとどのくらい』が「ウルトラジャンプ」10月号に掲載された。
「あの人には負けたくない」
学校内での軽薄な人間関係に馴染めず、精神的に孤立している女子高生・浜原はるか(はまはら・はるか)の心の支えは読書活動。
新刊の発売日に書店へと駆け込むはるかだが、目当ての書籍は売り切れており、なんと最後の一冊は書店員の女・難波小路(なんば・こみち)が買ってしまったという。
挑発とも思える小路の態度に敵愾心を抱くものの、彼女の読書に対する造詣の深さに触れたことで敗北感を味わってしまうはるか。
知識も経験も何もかもが敵わない、「大人」という存在を前に、対抗心は、いつの間にか屈折した好意へとすり替わっていく。
小悪魔のような大人と、それに振り回され続ける少女。蟻地獄のような関係性が行き着く先とは……。
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©たいぼく/集英社