読み切りレビュー
『杉浦先輩は好きと言えない』宇治一仁 好きより先に嫌いと言っちゃうラブコメディ
たまごまご
山ほどの「嫌い」は、たったひとつの「好き」のため
口を開けば出てくるのは、「嫌い」の言葉。
オリジナル作品だけの同人誌即売会・コミティアなどで活動してきた宇治一仁氏の商業デビュー作となる読み切り短編『杉浦先輩は好きと言えない』が、4月10日発売の「ヤングキング」に掲載されている。
いつも不機嫌な杉浦先輩の「嫌い」と「好き」
いつも生徒会室にいる杉浦先輩。彼女は昼食時、映画のチラシを見ながら「嫌い」と、がなりたてる。あらゆる語彙を使って批判の嵐。
なんでも「好き」と言う後輩の真島は、彼女のところに来て昼食を広げながら、文句をじっと聞いている。
杉浦先輩は、好きなものを好きと言えないのをわかっているからだ。
悪口ばかり言う三白眼少女の、噛み付くような姿のかわいさを徹底的に突き詰めた作品。へそを曲げる姿ひとつひとつが、とても愛しい。
「好き」の反対は「嫌い」じゃなくて「無関心」、なんてよく言われる。
杉浦先輩は映画へのこだわりが強い。映画絡みのことなら、なんでも徹底的にほじくり出す。
「嫌い」も「好き」も「興味を抱いている」というところから生まれる。だから両者の感情のベクトルはとても似ている。
ツンデレではない彼女の魅力
好きなのに、思っていることと裏腹なことを言ってしまうのは、漫画界隈だと「ツンデレ」と言われる。
しかし杉浦先輩は、ツンデレではないと思う。
なにより彼女は、「裏腹なこと」は言っていない。文句も全部ひっくるめて、素直だ。
「好き」という言葉をひねり出すために、一旦自分の中にある「嫌い」につながる用語を全部吐き出さないといけないだけ。
むしろ適当に褒めるわけじゃない分、ものすごく誠実だ。
真島は、生きづらそうな彼女の言葉を、全て否定せずに聞いて、受け止める。
彼の前で逐一文句をつけ続ける彼女は、まるで子犬が飼い主に尻尾を振って吠えているかのよう。
彼女の文句は、「かまって」という気持ちを共有したい叫びだと気づいている。
不器用な杉浦先輩のことを、見守ってくれる人間がいる安心感。
彼女を受け入れられてくれる環境がしっかりと描かれているから、この漫画は読んでいて心地が良い。
凝縮されたかわいさ
18ページと、あまり長くない作品。
杉浦先輩のかわいさを表現することに特化しているため、その他の人間関係や設定はすっきりと、過不足なくまとめられている。
彼女の独特なショートカットには、宇治氏のこだわりが見える。薄い眉毛と三白眼もとても印象的。そして膝丈スカート、白ソックス、地味めの制服。ものすごい少女フェチズムだ。
序盤・中盤・終盤・ラストと、短い中で彼女の表情が大きく変わっていくのが、ものすごくかわいらしい。
それを引き立てるように、彼女の言葉を全て受け止める真島の存在もバランスがいい。
かなりくっきりとキャラ立ちしている彼女の魅力。学校での様子や、友人との会話、真島がいない時の行動など、いろんな角度からまだまだ見てみたい。
©宇治一仁/ヤングキング 株式会社少年画報社