読み切りレビュー
カボちゃ『2年と11か月』百合アンソロ『エクレア』でデビュー。切なさが突き刺さる“期限付きの恋”
yomina-hare編集部
さよならの瞬間が待ってる“期限付きの恋”
『やがて君になる』の仲谷鳰氏や『あの娘にキスと白百合を』の缶乃氏など、百合作品で人気を博する作家が多数参加した百合アンソロジー『エクレア』が先週、11月26日に発売された。
発売から1週間もたたないうちに重版が決定するなど、すでに大きな話題を呼んでいる『エクレア』だが、人気作家だけでなく、新人漫画家の作品も多数掲載されており『2年と11か月』もそのひとつだ。著者のカボちゃ氏は本作がデビュー作となる。
当たり前だった「特別」な関係
春から高校生になったはるなと実宇。
幼い頃からずっと一緒だった2人は、「好きだ」と確かめあったわけではないけれど、ただの「友達」ではなかった。
けれどそんな2人の関係も少しずつ変わっていく。
はるなの母が離婚の心労から心のバランスを崩してしまったのだ。はるなが母を大切に思う気持ちを実宇は知っている。一番近くではるなを見つめていたのは、他でもない実宇なのだ。
はるなのことを思い、実宇は少しずつ彼女との距離を置くようになる。
嫌いになったわけじゃない。
むしろ大切な存在だからこそ近くにいることはできない。
「私たち 『友だち』に戻らなきゃ…」
そんな実宇の決断が痛々しい。
「特別」な今をとじこめて
母親へのはるなの気持ち、はるなへの実宇の気持ち、実宇へのはるなの気持ち。
人を想うことは、尊いことだけれども、きれいなことだけじゃない。胸を突き刺すような痛みを伴うこともある。
誰も誰か傷つくことなんて望んでいない。けれど優しさや暖かさは、ときに悪意よりも鋭い刃となって心を切り裂く。
「世界ってしかくいって思うんだ」
「大人になったらぬけだそうよ」
大人になれば、2人はずっと一緒にいられる。
そんなふうに思っていた幼い頃の約束は、残酷にもはるなと実宇が大人になるにつれて、叶わぬものになっていく。
高校生という大人でも、子どもでもない特別な季節。
そこははるなと実宇にとって、お互いの「特別」でいられる最後の時間なのかもしれない。
『2年と11か月』というタイトルに込められたはるなと実宇の願いが切ない。
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