新連載レビュー
tMnR『たとえとどかぬ糸だとしても』兄嫁に恋した妹は想い行き先をどこに定めるか
川俣綾加
けしてとどかぬ手遅れの恋
11月発売号より月刊化した「コミック百合姫」で、新連載10本が同時にスタートした。tMnR(とものり)氏の『たとえとどかぬ糸だとしても』はそのひとつ。
第1話は、あたたかくて残酷な美しい物語が広がっていくと予感させてくれた。
その気持ちに気付いたのは兄嫁のウエディングドレス姿
高校生のウタは、新婚の兄夫婦と3人暮らし。兄・怜一の結婚相手は、兄妹の幼なじみである薫瑠(かおる)だ。大好きな近所のお姉さんだった薫瑠と怜一が挙式したのは1年前。
ウェディングドレス姿で愛を誓う薫瑠を見た瞬間、ウタは己の胸にある想いは恋なのだと気づく。
今も目の前にいるのに、毎日一緒に生活しているのに、自分の気持ちに折り合いをつけられないまま。それは届かない恋の糸だと知っているのに、「常識なんか全部吹っ切って告白でもなんでもしちゃえば?」と親友のクロちゃんが話すように思い切った方向にも進めない。
善い人々だからこそ残酷なのだ
ウタも、彼女を取り囲む人々も、みなとても善良だ。しかし善良さは時として残酷である。
結婚記念日をうっかり忘れていた怜一に代わり、ウタは薫瑠と2人で遊園地で思いっきり遊ぶ。観覧車からきらめく夜の街を見下ろしながら、ウタは薫瑠とおそろいのペンダントをプレゼントされる。それは家族としてのつながりを表すもの、親愛の証だという。
愛しい人からの贈り物で、本来ならとても嬉しいはず。
けれどウタが欲しいのはそんなものではない。
遊園地から帰ってくると、ウタとつないでいた手をするりとほどいて怜一のもとへ駆け寄っていく薫瑠。それを間近で見せつけられてしまうのもまた、家族だからこそだ。
一つひとつの思いやりからくる行動も、告白する・しないの選択肢も、全てがウタにとって残酷なもの。
彼女の視点では真っ白な世界に、自分だけが黒い点として映っているのではないだろうか。
表面を取り繕い内に悶々とした感情を抱え、行動に移すこともせず、まわりの心配をよそにひとりで悩む。これは卑怯にも見えるし、それでも兄夫婦の幸せを願う姿は美しくも見える。
彼女の片思いがどこにたどり着くかは、彼女がいかに自身の殻を突き破るかにあるのだ。
©tMnR/一迅社