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手作り弁当をトイレに流す。それは孫の優しさだった 『良い祖母と孫の話』加藤片

たまごまご

2012年、ひとつの短編漫画がpixivに投稿された。加藤片氏の「良い祖母と孫の話」だ。

人の優しさを煩わしく感じることは誰にでもあるだろう。その結果引き起こされた、ある出来事が描かれた16ページの物語は、読むものの心に衝撃を与え、大きな反響を呼んだ。

その後、竹熊健太郎氏責任編集のWEBコミックサイト・電脳MAVOにて、加藤氏自身の手によるリメイク版が発表。pixiv版に続く物語も描かれ、さらなる共感をえた。

そんな『良い祖母と孫の話』が明日9月10日、ついに単行本として発売される。

優しさが、噛みあうまでの物語

孫のしょう子は、おばあちゃんが丁寧に作ってくれたお弁当を、学校のトイレに流した。
来る日も来る日も流した。

おばあちゃんが嫌いなわけじゃない。ただ、人の手で作られたものよりも 、ビニールに包まれ、売られているものの方が安心するからだ。
もちろん、おばあちゃんには捨てていることは言っていない。

何も言わなければ、良い祖母と孫の関係を維持できる。そう思っていた。
ある日、おばあちゃんは学校で、しょう子がお弁当を捨てているのを知る。

トイレで毎日繰り返される風景。それは“良い孫”で居続けるための儀式のようだ

「良い家族」の迷走

読んでいてひたすら息が詰まる。

例えばしょう子がお弁当を捨てるシーン。最低の行為にしか見えない。
しかし物語が進むにつれ 、彼女がおばあちゃんとうまくコミュニケーションを取れず、ひどく苦しんでいるのがわかってくる。

お弁当を捨てるのも、おばあちゃんとの関係を保つため仕方なくと思い込んだ結果、取った行動だ。

タイトルの「良い」の言葉は、序盤においては「良い家族のフリ」という皮肉だ。
気持ちを伝えないことで作られる、仮初の「良さ」にこだわってしまったがゆえに、2人の関係はどんどん壊れていく。

特にお弁当のことがおばあちゃんにバレたあと。

なにも言わぬおばあちゃんは、ものすごい圧迫感で描写され、しょう子の精神は追い詰められていく。

「ありがとう」と「ごめんね」

おばあちゃんの心理は、全く描かれていない。
絶対怒らない。怒ってくれたらまだ楽なのに、ずっと親切だから怖くなる。

単行本化にあたって、陰影など細部の描きこみが増えた画面は、物語にいっそう重厚さを与える。WEBで読んだ読者も要チェックだ

「ありがとう ごめんね」
「私もお父さんも ひとりでなんでもできるから だからもう なにもしなくていいから」

ここだけ見ると本当に冷淡な発言。でも違う、彼女が苦しみぬいた末に絞り出した言葉だ。

おばあちゃんはこの前のページで、こう言った。
「……ありがとうね しょうちゃんは優しい子だね 優しいから何も言わないでくれてるんだよね いろいろ迷惑かけてごめんね」

本心からそう言っている。

人と接するということは、言葉を交わすことだ。
黙っていれば場は円滑に進んだように見える。自分の思いを打ち明ければ、ケンカになることもあるだろう。
「感情を隠すことが優しさだ」と思い続けていたしょう子は、おばあちゃんのセリフどうり、実際優しいのだ。

だから彼女が、常に他人の顔色を伺ってしまう様子は、あまりにも切ない。

「私 おばあちゃんにすごく かわいそうなことした」と、しょう子は苦悩する。どう接すればいいのかと必死にあがく。

捨てたお弁当は、二度と戻らない。
けれど、お弁当に込められたおばあちゃんの気持ちは、絶対に消えないはず。しょう子はそれに、後からでも応えることことはできるかもしれない。

これは、言葉でコミュニケーションを取れない少女の空回りする優しさと、孫に対する祖母の無償の優しさが、噛みあうまでの物語。

2人の長い道のりを、一冊にきっちりとまとめた作者の手腕を、ぜひ読んで欲しい。

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