明日発売の新刊レビュー
『神クズ☆アイドル』いそふらぼん肘樹 神アイドルの幽霊が顔だけクズアイドルに憑依!
一ノ瀬謹和
「神」なのか、「クズ」なのか!? ふたつの顔を持った新アイドル誕生!
メジャーから地下まで多種多様なアイドルたちがひしめき、群雄割拠の様相を呈したアイドル文化の一大潮流「アイドル戦国時代」が到来してから、もうどれくらいたっただろうか。アイドルなど一部の愛好家だけが目を向ける閉じた文化……といった印象は、もはや完全に過去のもの。TVや雑誌、広告でアイドルを見かけない日などなく、おじいちゃん、おばあちゃんですらアイドル番組を観る時代なのだ。
当然、その影響はフィクションの世界にも及んでおり、ゲーム、アニメ、映画、漫画といった様々な媒体で「アイドルもの」作品が作られ続けている。
明日、6月25日に単行本第1巻が発売される、いそふらぼん肘樹(ひじき)氏のアイドルコメディ漫画『神クズ☆アイドル』は、その中でも一際異彩を放つ変化球的な作品だろう。
一迅社 (2018/6/25)
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協力者は……アイドル幽霊!
2人組男性アイドルユニット・ZINGS(ジングス)の仁淀(によど)ユウヤは、やる気なし、笑顔ゼロ、ファンサービス精神皆無という空前絶後のクズアイドル。
唯一の取り柄である顔の良さや、世話焼きな相方・吉野(よしの)カズキの助けによって、毎度のステージを乗り切っていたものの、ついに事務所社長の逆鱗に触れ、「態度を改められなければクビ」だと言い渡されてしまう。
「ラクして稼ぐ」夢が絶たれるならばと、アイドル業に見切りをつけようとする仁淀の前に現れたのは、なんと、人気絶頂のさなかに事故で死んでしまった元アイドル・最上(もがみ)アサヒの幽霊だった……。
アイドルをサボりたい仁淀と、アイドルに未練があるアサヒ。利害が一致したふたりは、憑依能力を使った、仁淀の「中身」替え玉作戦を画策する……!
空前絶後のクズアイドル……!?
アイドルとは、常にファンを愛し、笑顔を絶やさず、キラキラした生き様を見せるもの……そんな美しい価値観に真っ向から立ち向かっていくのが、本作の主人公である仁淀くんだ。
度を超えたマイペースと自堕落を両立させた彼がアイドルを志したのは、「顔が良いだけで金を稼げそうだから」という、シンプルにネジ曲がった理由から。レッスンは真面目にやらず、ステージ上では楽をすることだけを考え、ファンの気持ちをまったく理解しようとしない。そもそも、アイドルという存在に興味がない……。
アイドル漫画の主人公でありながら、アイドルという存在をナチュラルにナメくさっており、その余りにもふてぶてしい態度はインパクト抜群。思わず吹き出してしまうこと請け合いだろう。
共闘関係を結んだヒロイン的存在・アサヒちゃんとの関係もじつに良い。
生前は「アイドルバカ一代」の異名を取るほどに自らの職業を愛していた彼女が、仁淀くんの気の抜けたアイドル活動を放っておけるわけもなく、あの手この手の手段を駆使して、アイドル活動の素晴らしさを知ってもらおうと奮戦するものの、価値観が絶望的に異なるふたりはスレ違いを繰り返してしまうのだ。
仁淀くんの生きながら死んでいるような覇気のなさと、アサヒちゃんの幽霊とは思えないハツラツさ。すべてがまったく噛み合わないふたりの漫才のような会話劇は、著者の卓越した言語センスも相まって、痛快な読み心地を生み出している。
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©いそふらぼん肘樹/一迅社2018