明日発売の新刊レビュー
『ブルーピリオド』山口つばさ 才能にノウハウで立ち向かう美大受験物語
根本和佳
努力家が、“好き”を手にしたらーー
早朝の渋谷の色を、描いてみたい。あの青い色が、好きなんだ。
そうして描いた「青い渋谷」は、未完成ながら小さな称賛を得た。
ーーうれしかった。
初めて、心から達成感を覚えた。
好きなことを仕事にするなんてリスク高すぎだし、お絵描きなんて時間の無駄だ。第一、美大になんか行って何になる……そう思ってきたのに、描く手が止まらない。
もっともっと、見えたものを、感じたとおりに表現したい。
八虎が目指すのは、実質倍率200倍ともいわれる唯一の国立美大・東京藝術大学(藝大)。「東大より難しい」ともいわれる日本一の難関校だ。
徒手空拳で挑む八虎に、美術部の先生や先輩、同級生の女装男子・ユカたちが、さまざまなノウハウを授けてくれる。
“見たまま”を描くデッサンの基礎、と言いつつデッサンでうまく嘘をつくコツ、遠近法のワザ、さらには道具の選び方や描く姿勢のことまで。
まったくのゼロから、もっとも険しい山に挑むための、コストをかける毎日が始まった。
美術部の先生はこう言った。
「好きなことをする努力家はね、最強なんですよ」
努力をいとわない八虎が、“好きなもの”に本気で向き合い始めたーー。
彼が踏み出した一歩は、美大受験という目標を見据えた、ロジカルな歩みなのだ。
講談社 (2017-12-22)
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©山口つばさ/講談社