新連載レビュー
さもえど太郎『Artiste(アルティスト)』 パリの気弱な料理人、愛憎と騒動に巻き込まれる
根本和佳
レストランの料理人たちが抱える、小さく重い愛憎
9月21日に発売された「月刊コミック@バンチ」11月号より、さもえど太郎氏による新連載『Artiste(アルティスト)』が始まった。
皿洗いの青年、ド素人に煽られる
舞台はパリの有名レストラン。
戦場のような厨房の雑用係として働くことになったマルコは、皿洗いのジルベールから仕事を教わることに。
気弱でオドオドしているジルベールだが、料理の素人であるマルコの質問には的確に答えてくれるのだった。
不審に思ったマルコはジルベールに問うーー
「ほんとは料理できるんでしょ」
レストランや料理界という社会の内側で、ルールや情に縛られるジルベールたちと、その外側からやってきた自由なマルコ。一見するとマルコが主人公のようだが、物語はジルベールの成長を軸に描かれていく。
第1話にして数多くのキャラクターが登場し、ひとつふたつと謎を落としていく展開から、群像劇としての厚みも感じられる作品だ。
ほとんど主張をしないジルベールだが、ただ暗いわけではなく、思慮と気遣いを含んでいるのが感じられる。強く迫られても煮え切らないジルベール、困った顔のジルベール、料理人なのにおなか弱そうなジルベール……なんだかちょっとかわいく見えてくる。
内向きな料理人たちに風を送る、マルコの存在
『Artiste』はもともと、さもえど氏が同人誌やpixivで発表していた作品を再構成したもの。
登場人物が多く複雑なレストランの人間関係を、丁寧でなじみやすいタッチがフォローしている。背景の厨房やスタッフたちまで細かく描き込みつつ、人物にはメリハリがあって読みやすい画面になっているのだ。マルコが放つあっけらかんとした一言を、スコンと抜けたコマで表現しているのも気持ちいい。
一方で、シェフのカルマンをはじめとする一癖も二癖もありそうなスタッフそれぞれに事情や思惑があって、油断すると足を取られそうな空気が漂っている。それに翻弄されていくジルベールも、やっぱりかわいい。
©さもえど太郎/新潮社