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『指先から滑り落ちるバレッタ』つつい いじめに援交、男とセックス……異色の百合短編集

たまごまご

エッセンスとしての男

援交相手のおじさんは、見た目も行動もどえらく汚い。
「コミック百合姫」という女の子の園を味わうために本を開いたのに、まず彼が目に入ったら、咄嗟に閉じてしまうかも。
しかしこの短編集に、ろくでもない男の存在は必要不可欠だ。

「メルティーブラック」では、社会人女子・池垣由衣(いけがき・ゆい)女子高生・前川小夏(まえかわ・こなつ)の出会いが描かれている。

小夏は、由衣の隣の部屋に住む大学生の恋人。非常に愛らしく、天真爛漫な少女だ。
しかし彼女と知り合ってから数日たった深夜、となりの部屋から小夏のあえぎ声が漏れ聞こえてくる。

「メルティーブラック」より。自分を慕ってくれる歳下の女の子の嬌声に、心をかき乱される

その後、大学生は「コドモの遊び」と言って、あっさり小夏を捨てた。
同じ男性の目から見ても、登場する男性キャラクターに共感できる要素が一切ない。
この本で描かれている男性像は、女性が直面する理不尽な現実の象徴のようにも感じる。。

「メルティーブラック」より。悲しいことはいつだって起こる。それを乗りこえようとあがく姿にドラマがある

どうしようもない現実に対峙した時、誰でも虚無感に責めさいなまれる。
だからこそ、自分と違う生き方の女性に出会った時、自分の生き方を見直し、強く惹かれるようになる。

まやかしのような人間関係から、ド直球な百合作品までが収録された『指先から滑り落ちるバレッタ』。
よきにつけ悪しきにつけ、女性ふたりが一緒にいることで生まれる物語として、どの収録作も仕上げられている。
そこをベースにしながら、現実に振り回されない女の生き様を描こうとしている意欲的な作品集だ。

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©つつい/一迅社 2018