明日発売の新刊レビュー
『萌恵ちゃんは気にしない』喬文 マイペース極まった少女がもたらす、幸せ時空
たまごまご
気にしないことのポジティブ
登場人物に、一般的な人間がほとんどいない作品だ。
謎の宇宙人が萌恵を研究するためにさらいに来る、など周囲の非人間キャラたちですらびっくりする極端な事件も多い。
それでも、萌恵は一切気にしない。
魔法少女・まほも、吸血鬼・ミラも、最初はマイノリティである自分の存在に苦しんでいた。
しかし萌恵と出会ったことで、思考がプラスに転換している。
「気にしない」というのは極めてポジティブな、許容の精神だ。
彼女が気にしないのは、無視をする、興味を持たない、とは根本的に違う。
萌恵は、相手のことに興味を持った上で、気にしない。
魔法少女のまほに対してちゃんと向き合って、衣装がかわいい、とはっきり感想を述べている。
その上で「人間社会の中で隠し事があるあなたでも、多少制御が効かなくなってしまっても、別に私は気にしない」という意味合いで彼女は「気にしないわ」と言う。
相手のプライバシーに過度に踏み込むことはしない。意識しすぎて距離を置くこともしない。
萌恵は誰に対しても、付き合い方がフラットだ。
自分の特殊性に悩んでいた子たちが、萌恵が気にしなかったことで「これでいいんだ」と許しを得たかのように、自分を認め始める。
ドタバタコメディの皮をかぶった、救済の物語になっている。
萌恵ちゃんってなんなの?
この作品、いい話だなあ、でしっとりまとまったかと思いきや、時々萌恵が何者なのかわからない描写が飛び込んでくるから、油断ができない。
風邪をひいたら人体とは思えない高温で発熱し、光り出す。
ちょっとした事故の衝撃で、幽体離脱し、魂が3つになったこともある。
人間なのか……?
彼女が何者なのか、作中には一切描かれていない。
もっとも、それは気にしないでいいのだろう。
もしかしたら彼女の正体が描かれる日が来るかもしれない。
それがわかったところで、まほもミラも、きっと彼女への態度を変えたりはしないだろう。
どんな正体を持っていようと、萌恵は萌恵。そんな“気にしない精神”を、きっと受け継いでいるはずだ。
豪快すぎるネタと、キャラが自己肯定していくドラマのバランスがとてもうまい作品なので、安心して楽しめる。
今後、絶対これは人類は受け入れられないだろうキャラが登場し、それを萌恵が全く気にせず友達にして、菩薩のごとく救ってしまうような展開があるのを、期待しています。
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©Takayuki 2017