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ゾンビのいる生活に、すっかり慣れました『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』荒井小豆

たまごまご

悲壮感のない、のんびりゾンビ日常コメディ

街中ゾンビ溢れる世界。3人の少女はアパートから出られない。
まあ仕方ないから、洗濯物でも干しますか。

荒井小豆氏による、だいぶのんきなゾンビサバイバルコメディ『醤油を借りにいくだけで死ぬことがある世界の中級サバイバルガイド』単行本が明日3月9日に発売になる。

サバイバル生活真っ只中。当然ながら銭湯なんてやっていませんが、全体的にこんなノリです

死と隣合わせの恐怖と、慣れ

いつも元気いっぱい、やることなすことバカで唯一巨乳な吉竹
真面目で冷静、もっとも常識人かつ気苦労の絶えない浅井
マイペースで表情をあまり変えない、ちゃっかりものの不思議ちゃん馬場

3人は同じ下宿暮らしのお隣さん同士。
アパートの外は、ゾンビの群れで溢れかえっている。
けれども3カ月もこんな生活をしていたら、感覚が麻痺してきた。窓から入ってきたカメムシ感覚で、ゾンビを追い返す。

家の中にゾンビが入ってくることもある。だけどまあ、なんとかなるんじゃないの

絶望を乗り越える力

昨今話題になったゾンビ漫画に『アイアムアヒーロー』『がっこうぐらし!』などがある。どちらも生き残った人間が戦いながら、狂気の一歩手前まで追い詰められるのが面白い。

しかし『醤油を〜』の3人は、孤立状態なのに精神的にそこまで追い詰められていない(多分)。
ゾンビはもちろん怖い。集まっている群れを見たら、全力で避ける手段を講じる。
サバイバルがはじまって1週間目くらいは、ゾンビの気持ち悪さと恐ろしさに怯えていた。人の姿をしたものを相手に戦えず、オロオロしていた。

それから3カ月。3人はすっかりたくましくなった。
窓から見えるゾンビにあふれた景色も、見慣れた日常の光景になった。

サバイバル生活のカギになっているのは、迷惑千万大騒ぎなムード&トラブルメーカー・吉竹の存在。
ビンコーラを飲みたい、牛丼が食べたい、と政府に訴え、届けさせる。PS4がほしいと駄々をこねる。
一番足を引っ張っているのは、間違いなく彼女。

だが吉竹の一貫してバカな言動は絶望的な空気を和らげる。
本来であればゾンビだらけのサバイバルで、わがままなんて絶対許されない。
でも彼女は、常時ワガママだ。浅井も馬場も吉竹の行動にツッコミを入れているうちに、何もかもどうでもよくなる。不安はかなり薄れていく。

過去も未来も、考えるのをやめよう

マイペースで何考えているかわからない馬場の存在も大きい。
現時点ではメンタルが一番タフ。防護服がわりにキグルミを着て、オリジナル武器を作り、ゾンビたちを撃退する。
挙句、自分たちの快適な生活のために、ゾンビを使うほど。

使えるものはゾンビも使う。相手は人間じゃないぞ、開き直っちゃえ

さすがに浅井と吉竹もびっくり。
同時に「生きていくためには、このくらいやっちゃっていいんだ」と開き直るきっかけを作るのも、彼女。
影響を受けた吉竹は、浅井に言う。

「ゾンビ縛ったり服脱いだりドラム缶風呂作ったり こんな世界だからやんなきゃだめなんだよ」

ただのやけくそかもしれない。
でも「無理」だと決めつけるより、倫理は忘れて、後ろを振り返らない方が、断然プラス。どうせ考えても、失うものなんてないんだから。

3人は「助けが来るかも!」と無理にポジティブにはならない。
過去のことを思い出して、後ろむきに悲しむことも一切しない。ただ目の前にあることをやるだけ。
これが上級ではないけど、心をガードしながら戦い抜く「中級」なサバイバル術

吉竹の暴走と、馬場の独自な価値観、浅井の困惑による、ずっこけな話が多い作品。
その裏に眠っているのは、どんな状態でも「日常」は作れる、という人間の適応能力への賛歌だ。

ところで何が起きてるの?

この3人、どうもわけありっぽい。
彼女たちの一人称は「オレ」や「俺」。女性の裸体を見るのに慣れていない。
物資を送ってくれる政府に、吉竹は言う。

「……あのぅ やっぱり怒ってます? 逃げたこと」

3人は同じ施設にいたらしいということが、ちょっとだけほのめかされている。
彼女たちが何者なのか、現時点では一切明かされていない。
そもそもゾンビが溢れているのはなぜなのか。どうして3人だけ取り残されているのか。政府から援助が来るのはなぜか。

分け隔てられた世界。恐怖に慣れるというのは、これからを考えないことでもある

今はタイトルにあるような、醤油を貸してくれる隣人すらいない。
馬場は言う。

「まぁ そのうち終わるだろ」

笑える日常は、みなが思いや不安を口にしない、スレスレのバランスでできている。



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©AZUKI ARAI 2017 / KADOKAWA