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中世欧州×ファンタジー×RPGの世界に耽溺しよう『竜と勇者と配達人』グレゴリウス山田

武川佑

中世ファンタジー世界を支える“主役じゃない”人々

数年前、創作同人誌即売会・コミティアで『十三世紀のハローワーク』というオールカラー同人誌が発表された時の衝撃は忘れられない。
中世ヨーロッパに実在した職業をRPG風にパラメータ化し、デフォルメのきいたイラストに豊富すぎる知識量による解説を加えた同人誌は、長らく伝説の名著と語り継がれてきた。

主人公の吉田。郵便配達人という多くの人のもとを訪ねる彼女の目を通してストーリーは描かれる

その作者であるグレゴリウス山田氏の魅力がぎゅっと詰まった商業初単行本『竜と勇者と配達人』第1巻が集英社から1月19日に発売される。帯の推薦文は『大砲とスタンプ』の速水螺旋人氏。説得力のある推薦人を信じて間違いない良作だ。

私達の知らない様々な職業

皇帝都市アイダツィヒの駅逓局に勤めるハーフエルフの吉田は、中世ファンタジーの世界の、郵便配達人である。

「剣と魔法」の世界も戦乱期を過ぎて安定期に入ると、都市が発展し、文化や産業が発達する。
法(ルール)による秩序がしかれ、吟遊詩人の「口承」から、ペンによる手紙・書類、すなわち「文字文化」が世界の基盤となる。
吉田はそんな新たな時代の申し子である。時代の最先端だぞ、ワクワクするではないか。

物語を彩ってくれるのは、こんな人たちです。

公証人がいるのが個人的にストライク。公証人は録音も録画もない時代の最重要メディアマンである

中世欧州×ファンタジー×RPGの図鑑を堪能しよう

本作はファンタジー世界に生きる「名もなき仕事人」の姿を、史実ヨーロッパ中世の風俗を入れ込んで、ユーモラスに描く。ある種の「お仕事漫画」だ。

勇者一行が見事ドラゴンを退治したのち、どうする?
肉は食用に、鱗や牙は薬や工芸品の材料となり、人々の生活を潤す。ドラゴンを倒すやいなや、わっとドラゴンに群がる商人、職人はパワフルだ。

自らセリを仕切る勇者様。勇者が経済を回すのだ

ここに経験値記録官といったRPG的フィクションも混じってくる。
知識でギチギチに固めず、遊びの余地があるから、まるで図鑑をめくるように「こうなっているのか!」「なるほどなあ」と、知的好奇心が刺激されるのだ。

細部へのこだわりを楽しもう

吉田が手紙を届けにあちこちへ行くにつれ、世界のディテールは明らかになってゆく。
建築物の描画は、通りの生活音が聞こえそうなほど。

猛々しい兵士団の登場シーン……のはずだが、なにか台詞がおかしい

このシーンで登場する兜は、基本的に実在したヨーロッパの兜をモデルに描かれている。
作者の熱意は誌面だけに収まらず、兜への愛が炸裂するコラムを自身のサイト「WTNB機関年代記」に掲載。こちらもぜひ読んで頂きたい。

緻密な世界観に裏付けされたストーリーも、もちろん骨太である。
「名もなき市民」の吉田は、クセのある世間にもまれながら、郵便配達という仕事に誇りを見いだしてゆく。

同じく「名もなき一市民」の私たちが、この世界に生きていたならどんな職につきたいだろう? どんな風に生きたいだろう?
想像をめぐらせる時、あなたはもう皇帝都市アイダツィヒの住人なのだ

なお、冒頭で触れた『十三世紀のハローワーク』は、『中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク』として一迅社から刊行予定。発売日は『竜と勇者と配達人』と同じく1月19日だ。こちらは「オウガ」シリーズのゲームクリエイター・松野泰己氏より帯推薦文が寄せられている。
ぜひ2冊とも揃えて楽しもう。



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おまけ

編集部から「武川さん落ち着いて。長過ぎるので削ってください」と言われ、泣く泣くボツにした部分を供養。依頼された原稿文字数1,500文字のところ倍の3,000文字で原稿提出していた。

・皇帝都市アイダツィヒ、都市国家っぽい名がもう中世末期~近世に入りかけの過渡期を思わせ、たまらなくワクワクする。
・ふいごの発達で炎の術師がリストラの危機とか、たまらん。
・ちなみに私の好きな兜はバシネットです。たまらんね。

以上ご静聴ありがとうございました。

©グレゴリウス山田/集英社