明日発売の新刊レビュー
誰も幸せになれない一途すぎる恋の物語『青春、失格。』あさひあける
たまごまご
大事な人を想いつつ、別の誰かと肌を重ねる
彼は幼なじみだった。彼女は同室の親友だった。彼女と彼は、関係を持っていた。ドロドロな青春残酷物語。
「コミックヘヴン」掲載のあさひあける氏の初連載『青春、失格。』第1巻が明日、12月10日発売される。
海砂橋愛音(みさばし・あいね)高2。元気で明るく、はきはきした少女。
彼女の幼なじみ、城田陸(しろた・りく)。学校ではモテモテで、周囲はハーレム状態。愛音も呆れ顔。
愛音と同室の夜想香魚(やそう・あゆ)。ふわっとした美人で、愛音と仲が良い。
幼い頃、愛音と陸は手を繋いで帰るほど仲良しだった。
中学時代、陸に好きな人ができても、愛音は全然気にならなかった。
幼なじみは、家族みたいなものだって思っていた。
幼なじみが「男」に見えた時
そんな2人にも変化が訪れる。
陸は、高校に入ってすっかりプレイボーイに。モテるのはともかく、誰にでもヘラヘラして、調子良すぎじゃない!?
ある日愛音は、陸が誰かとキスをしているのを目撃してしまう。
彼女がはじめて見た、陸の「男の顔」だ。
男女の幼なじみの関係をテーマに、高校生の恋と性のもつれていく様子が描かれる。
それぞれのモノローグで話が進み、起きている出来事を多角的に表現する。
一話は、幼なじみだったはずの陸を見つめる愛音。
二話は、愛音以外の人を一切好きになれない香魚。
三話は、女子たちの姿をろくに見ていない抜け殻の陸。
四話まできて、3人はもう戻れないところまで来てしまったことに、気付かされる。
友人に、好きな人に、自分に。みんなどこかで嘘を付いている。
本人たちは、もうどれが真実なのか、わからない。
真実を見つけたら幸せになれるとは、限らない。
次第にみんな、行動がやけくそになりはじめる。
心の抜けた少年が、何もかもを狂わせる
唯一の男性キャラ、陸の行動のモヤモヤ感が尋常じゃない。
彼自身は、愛音のことしか見ていない。
愛音の気を惹くために、嫉妬させるために、香魚を利用してその身体をまさぐる。
「今日はこのまま、触るだけじゃなくて最後までさせてよ」とまで言う。
彼は遊び人の少女・りなとも肉体関係を持っている。
言い寄ってくる女子たちには全員に笑顔をふりまく。甘い声をかける。
何もかもが、愛音とうまくいかないことの憂さ晴らし。
「あー人生やり直してえ」
愛音の「私と陸は、一生、幼馴染だよ」の言葉がずっと彼を縛り付ける。
一番大切な人に振り向いてもらえない。彼の苦しみがわからないわけじゃない。
しかし、この作品の一連のもつれは、彼が元凶。やぶれかぶれになって、問題を大きくしている。
陸が愛音にちゃんと告白し、他の女の子と距離をおければ問題ないのに、それをしなかった。
「うるさい馬鹿 こっちはお前に振り回されて もうめちゃくちゃなんだよ」と陸はモノローグで語る。
それを口にすればいいだけなのに。
愛音も香魚も、陸に振り回されて、めちゃくちゃなのだ。
ただ、それでお互いを断罪できるほど、割り切れるほど、大人じゃない。
現時点での陸の、潔いくらいに自分勝手な行動には、ぎょっとさせられる。
一途な女子2人の思い。どうしようもない陸の行動。心理描写とモノローグを多用し、少女漫画的技法で描かれている。
一方、事件がポンポン起きて、キャラクターがぐいぐい動く様子や、りなの「どんな男だって浮気するよ」というドライな感覚は、第三者視点の少年漫画的。
このハイブリット加減が、不安定感・酩酊感を出している。視点と価値観がシャッフルされ、読んでいて何が正しいかわからなくなる。
恋と身体が一致しないから、傷が生まれる
心の動きと、身体の行動がどんどんチグハグになっていく。
キャラクターの性に対しての価値観が、非常に軽い。
愛音はキスだけでも苦しむが、陸は複数の好きでもない女性と寝る。
香魚は陸に対し、お互いの嘘の共存のために身体を触れ合うことを許す。
みんな、自分を大切にしていない。
一斉に行われる、自傷行為だ。
1巻ラストで、3人の関係が、決定的にこじれて崩れていく様子が見えてくる。
『青春、失格。』は、日本文芸社のWEBコミックサイト「ゴラクエッグ」に連載の場を移し、単行本のつづきは12月中に配信予定とのこと。
今後どこまで淀んでいくのか。
救われてほしいとは思う。
それ以上に、全員が手に負えないほど傷を負うのが見てみたいとも、思う。
日本文芸社 (2016-12-10)
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