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田村正一『サラブレッドと暮らしています。』 馬に蹴られて休載!? 現役厩務員、漫画家デビュー!

加山竜司

現役厩務員が描く「お仕事エッセイ漫画」

90年代は空前の競馬マンガブームだった。

「週刊少年ジャンプ」には『みどりのマキバオー』(つの丸)、「週刊少年マガジン」には『蒼き神話マルス』(本島幸久)、「週刊少年サンデー」には『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』(ゆうきまさみ)、「週刊少年チャンピオン」には『優駿の門』(やまさき拓味)と、四大少年誌すべてに競馬漫画が掲載されていたことからも、当時の過熱ぶりがうかがえるだろう。

以降、競馬漫画はジャンルとして定着し、さまざまなタイプの作品が生み出されていった。それらを内容面でおおまかに分類するなら、レース、実録名馬物語、ギャンブルの3系統にカテゴライズされる。

しかし、明日9月29日発売の『サラブレッド暮らしています。』はそのいずれにも属さない。
なにしろ本作は、現役の厩務員(きゅうむいん)が描くコミックエッセイなのである。

厩務員とは、競走馬の世話を日常的に行っている厩舎スタッフのこと。
そのため本作は、競馬についての知識がなくとも、「お仕事エッセイ漫画」として楽しむことができる。「お仕事漫画」としては、これほど特殊な職業はほかにない。

食事の世話や厩舎の掃除といった馬の身の回りの世話だけでなく、実際に馬にまたがり、運動をさせたりと一番長い時間を競走馬と過ごすのが厩務員だ

従来の競馬漫画では、主人公を支える名バイプレイヤーとして描かれることが多かった厩務員。
だが彼らが実際にどのような仕事に従事しているのか、あるいはその仕事にどのような困難や喜びがあるのか、われわれ部外者にはようとして知ることができない。

この『サラブレッドと暮らしています。』には、現役厩務員だからこそ分かる、現在進行形の「馬と人の物語」が紡がれているのだ。

現役厩務員ならではの「ナマの声」

本作の作者が所属しているのは、公営・園田競馬場(兵庫県尼崎市)。

中央競馬の場合は、関東(美浦)と関西(栗東)にそれぞれトレーニングセンターがある。そこに競走馬を管理する厩舎が集められており、そこから競走馬は、全国10場の競馬場へとレースに出向いていく。
このあたりは、競馬ファンには広く知られていることである。

ところが公営競馬(地方競馬)の場合はこの限りではなく、各競馬場によって事情はまちまちだ。園田競馬の場合は、競馬場に厩舎地区が併設されており、厩舎スタッフはそこで競走馬と寝食をともにする。

競走馬を調教(トレーニング)する際に使用するコースは、実際にレースで使用する競馬場だし、この作者の場合は厩舎の2階に住んでいるから“職場”まで徒歩10秒。仕事場と生活空間が密接に結びついているからこそ、ディテールに圧倒的な説得力が生まれる。

何よりも、他の厩務員や騎手、調教師との会話はリアリティが圧倒的だ。
牝馬にウマっ気(発情)ばかり出している3歳馬をエロに興味津々な高校生男子に例えたり、厩舎の馬房から出たがらない馬を内弁慶な引きこもりにたとえたり……と、その比喩の絶妙さや面白さから、彼らはこのような内容を日常的に話しているのだろう、と思わされる。

能力はあるのに、やる気がなくて連戦連敗中の3歳馬(人間で言えば高校生)。今、彼を支配しているのは性欲である

厩務員ジョークとでもいうか、まさしく「現場のナマの声」に聞き耳をそば立てているような感覚を味わえるはずだ。

なお、昨年11月には、作者が馬に蹴られて全治3週間の怪我を負い、まさかの休載。他の漫画では前例がない、ある意味では「現役厩務員の描く漫画」の惹句にハクをつける格好となった(ご無事でなによりです)。

時速70キロとも言われるスピードを生み出すサラブレッドの足、それはもう立派な凶器である。こうした事故の他、落馬などの危険もつきまとうハードな仕事なのだ



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©田村正一/白泉社