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SF(すこし・不思議)彼女とボンクラ男子の恋愛奇譚『春と盆暗』熊倉献

武川佑

彼女は、すこし不思議。

登場する女性は、みんな、一風変わっている。
水面で口をぱくぱくする金魚のように、顔を上げて息をする女の子。
けむに巻くような話術の年上のお姉さん。
ケーキの味を知るため、時間を巻き戻そうとする大友さん。

空想の月面で、道路標識を思いっきり投げる。何だそりゃ、と思いつつ彼女の話をもっと聞きたくなる

ちょっとズレていて、ほうっておけない。

エイリアンみたいな女の子と遭遇するボンクラ男子

彼女達と、うだつの上がらない「ボンクラ男子」との出会いを描くのが連作短編集『春と盆暗』熊倉献氏の初単行本が1月23日に講談社より発売される。
日常と隣りあわせの、少し奇妙な恋愛奇譚を味わおう。

この記事冒頭に掲載した画像の第1話「月面と眼窩」がとにかく、いい。
新人バイトのゴトウバイト先の先輩であるサヤマさんの、奇妙なクセに気づく。
話が長い客や、絡んでくる迷惑な客の対応をしている時、彼女は後ろ手で拳を握っては広げ、しきりに「グーパー」をしている。
その時彼女は、心の中で月面に道路標識を投げつけていた。

日常から数センチ浮いた世界

「道路の白線から落ちたらワニに食べられてしまう」というような空想は、子どものころ誰もが一度はやったことがあるはず。
大人になって、続けている人は少ない――はずだ。

「甲子園の砂を持って帰ったあとどうするか」に対するさわ姉の答え

彼女達のでたらめな空想は、日常をほんの少し、SF的な風景に変える。新鮮かつ懐かしい感覚が呼びおこされる。
地面から数センチ浮くような、心地良さがあるのだ。

そうして、彼女を知りたいと手を伸ばすと、ひらりと逃げられてしまう。
もう私達は彼女に魅了され、感染している。

ボンクラだからこそ、あなたの世界に気づく

変わり者の彼女達と対照的に、『春と盆暗』に登場する男子は、内省的で物静かだ。
周囲から「ボンクラ」と揶揄されることも。

不器用な彼らは、フラットな目線で彼女たちの空想世界に向き合える

2人が世界を共有するとき、それはやっぱり恋であり愛となる。

短編集など、1巻完結の「単刊もの」は、長編タイトルが主流の漫画界で、注目が集まりにくかった。しかし近年、田中相氏(『LINBO THE KING』、『千年万年りんごの子』)や九井諒子氏(『ダンジョン飯』)など、短編が評価され、飛躍につながる作家も増えてきた。

短編漫画には、その作家のエッセンスが濃縮されて詰まっている。
収録最終話「甘党たちと荒野」のラストページ、平穏でおかしみのある荒野が、とても良い。

『春と盆暗』が掲載された雑誌「月刊アフタヌーン」は、黒田硫黄氏や豊田徹也氏など短編の名手を輩出した雑誌でもある。
自由な発想力と表現力を今後も味わいたい。抉るような作品も、切ない作品も、ぶっとんだ作品も。どんなものも読みたい。そう思わせる連作短編集だ。



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©熊倉献/講談社