明日発売の新刊レビュー
かわいい怪物と薄命の巫女の切なく愛しい戦いの日々『やおろちの巫女さん』第1巻 武月睦
小林聖
“お約束”化した人間と怪物の対立の日常
明日、9月20日に単行本1巻が発売となる「ヤングマガジンサード」連載作『やおろちの巫女さん』は、人間と怪物のちょっと不思議な物語だ。
ルパンと銭形のようなユキと怪物たち
「あばよ〜とっつぁ〜ん!」
「待て〜! ルパーン!!」
ルパン三世と銭形警部のおなじみのやりとりが好きな人は多いと思う。敵対しながら、というよりも敵対してきたからこそ信頼が生まれた不思議な関係といえる。
1000年以上前に邪神「八岐大蛇(ヤオロチ)」の力を宿して怪物の王を封印した巫女、その末裔でヤオロチの力を受け継ぐ少女・ユキが本作の主人公。王の心臓を取り戻そうとする怪物たちは、日々彼女に襲いかかってくる。
だが、その関係はもはや敵対という感じではない。
怪物たちはヤオロチを宿したユキに敵わないのをわかった上で挑んでいるし、ユキも彼らを撃退はするが、殺めるようなことしない。形としては敵対してるものの、怪物たちはむしろヤオロチの力の代償で身体を蝕まれるユキを心のなかでは気遣っている。
ライバル的な信頼関係とは違うが、怪物たちとユキの間には不思議な絆があるのだ。
人間でないからこそ生まれる軽やかさと切なさ
人は自分の生活圏の外にあるものに対しては辛辣になりやすい。相手の人間性を忘れて、気軽に残酷になれる。それは逆にいえば、近いものに対しては情が湧くということでもある。
ユキと怪物たちの関係はそういうものだ。長い間戦い続けるうちにそれが日常となり、情が生まれ、敵でありながら慈しみ合う間柄になっている。
『やおろちの巫女さん』では、それを人間同士でなくどこか間抜けな怪物との関係で描いているところがひとつのポイント。人間同士だと生々しくなりすぎたり、野暮ったくなるところだが、どこかかわいい造形の怪物たちというファンタジー的な要素を入れることでコメディ感が増している。
また人間でない怪物たちだからこそ、彼らの持つ人間味がより印象的になっている。異質でありながらわかり合えている、わかり合っていながら敵対という形を続ける。そういう切なさが胸を打つ。
人間と怪物の笑えて泣ける人情日常劇。ずっと読んでいたくなるような物語だ。
講談社 (2016-09-20)
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©武月睦/講談社