明日発売の新刊レビュー
『魃鬼』下川咲 昭和最後の夏。狂気が正気と化した村で惨劇の幕が上がる
小松良介
ゆっくり絶望へ落ちていく、じっとりとしたサスペンス
国土の6割以上を山地が占めるという日本。豊富な自然に囲まれているからこそ、この国は風土に根ざした文化を育んできた。
……のだが、その一方で忌まわしき「因襲」が人々を蝕むケースもあったという。
正直、今では想像もつかない話だ。だが、ミステリやサスペンスといったフィクションの世界では、親しまれてきたテンプレートでもある。
クローズドサークル化した集落で、因襲によって歪められた人々が事件を引き起こす――。読者の興味を惹きつける絶好のシチュエーションといっても過言ではない。
「月刊アフタヌーン」で連載中の『魃鬼(ばっき)』もまた、そんな大好物をモチーフにした作品。明日、9月22日に第1巻が発売となる。作者の下川咲氏は、2015年秋の四季賞で四季大賞を獲得。読み切りをへて本作が念願の連載デビューとなった。
時代から取り残された寒村の末路
昭和63年。まだネットもなく、平成という現代に足を踏み入れる前の絶妙な時代背景。四国を東西につらぬく山脈の麓に、ひっそりと広がる「鬼釜村(おにがまむら)」が舞台となっている。ダム建設によって、数年後には水没で消えてしまう運命を静かに待っている小さな集落だ。
この地で暮らしていた祖父の死をきっかけに、東京から母&双子のかわいい妹と一緒に越してきた高校生の辻村修介(つじむら・しゅうすけ)は、村の総代で幼なじみでもある蕪木春(かぶらぎ・はる)と10年ぶりに再会を果たす。
春のおかげもあって田舎暮らしに馴染んでいった修介だったが、ある出来事をきっかけに村の恐るべき因襲を知ることになり……。
法が届かない山間の集落で、何百年にもわたって村民たちを支配している因襲。もしもそれが人殺しを正当化するものだったなら?
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©下川咲/講談社