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“死の条件”を求め、男は今日も人を殺す『A Will』昆野

川俣綾加

老衰以外で人間が死なない世界で“死の条件”を探し続ける

「B’s-LOG COMIC」で連載中の昆野氏『A Will』第1巻が明日12月1日に発売となる。

人が死んでも生き返る世界で、なぜか死んだままの両親の謎を解くため、主人公・ネンは人を殺し続ける

『A Will』で描かれるのは、老衰以外の「死」の概念がなくなった世界。
老衰以外の理由で死んでも蘇る世界で、主人公・ネンの両親だけはなぜか生き返ることがなくずっと死んだままだ。
ネンは、なぜ両親が生き返らないのか、人が死ぬ条件は何かを10年ものあいだ探し続けている。

主人公は無差別大量殺人者

両親が死んだのはネンが16歳の頃、10年前のこと。
3歳の妹と4人で暮らしていた。夫婦仲が良くのほほんとした空気が漂う両親やかわいくてたまらない妹。
無愛想なネンはそれを高らかに表現することはないが、家族のことを愛していた。

平和に見えていた日常は、両親の首吊り自殺によって一変する。ただの自殺ではなく、互いの手を釘で打ち離れないようにつなぎ止め、一緒に死んでいる。その日の夕食のメニューまで決めていた2人がなぜ死に、生き返らないのか。
ここから、ネンの死の条件探しがスタートする。

何の前触れもなく首を吊った両親。台所には夕飯の材料が残されていた

26歳になったネンは人を殺し続けている。小屋に連れ込まれた人間は名前、家族構成、出身地のほか「死んだことはあるか」までさまざまな質問をされ、ネンは丹念にメモを取り、そして殺す。今や彼は、立派な(?)無差別大量殺人者だ。

ヒントはあるはずなのにどれも線にならない数々の謎

彼に殺された人間は、死ぬ直前の記憶が飛んでいるようだ。
残忍な殺され方をした被害者だが、後日ネンに話しかけられても怯えるような描写はない。

ネンは大量殺人罪で警察に取り調べを受けるが、両親の死をミハエル警部は「ただの偶然、それだけ」と切り捨てる。2人の人間が行方がわからなくてもその理由を気にするでもない。
つまりは、警察ですら生き死にの意識が薄いとうこと。

当時3歳だった妹はどこへ行ったのか。
車に轢かれた猫は死んでいた。生き返るのは人間だけなのか?
この世界は、謎だらけだ。

在りし日の母の意味深な言葉。これ以外にも、謎を解く鍵になりそうなキーワード、風景などが多数織り込まれている

ただ謎が散りばめられているだけではない。きっといくつかの答えはすでに描かれていると思う。
実際、一度読んだだけでは気づけなかったことに、二度目で気づいた。淡々としたトーンで展開しているが、実はそこかしこにヒントとなる点が隠れている。

答えが明示される前に、読み手が自ら線にしていく愉しさがある物語だ。



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