特別企画
完成度よりも個性を重視! リニューアルしたゲッサン新人賞の実力は?
小林聖
「完成度」ではない、新人賞の面白さ
新人賞作品というのは、不思議な存在だ。
新人の作品だから、完成度でいえば多くの場合ベテランや連載作の方が一枚上手になる。技術的にも荒削りだと感じることが多い。
だけれども、新人賞には新人賞だからこその強烈な魅力がある。「ワクワク感」だ。
リニューアルしたばかりのゲッサン新人賞の第1回受賞作は、そういうワクワク感の詰まったラインナップだった。
センスとポテンシャルを感じる『台風卒業式』
ゲッサンはこの夏、「入選以上は即デビュー」「完成度は求めません」と打ち出して新人賞をリニューアルした。
9月12日発売の「ゲッサン」10月号では、リニューアル後初の受賞作が発表され、さっそく3人の若き才能がデビューを果たした。
今回は真田信政氏の『台風卒業式』が大賞、土平ゆの氏の『折り鶴マーベラス!』と鈴木ユーマ氏の『Apollogic nightmare』の2本が入選として受賞されることになった。大賞は「ゲッサン」10月号、入選は付録の「ゲッサンmini秋」に掲載されている。
『台風卒業式』は、卒業式に告白をしようとする女子生徒会長を描いた作品だ。3年間失敗だらけだった生徒会長が、今度こそと熱意を注ぐ卒業式だが、当日は台風。またしても思い通りにいかない展開となった1日を描いている。
ラブストーリーでは、告白シーンがクライマックスとなることが多く、告白に至るまでのキャラクターの関係描写の積み重ねが重要になる。
しかし『台風卒業式』では、ドタバタ劇のひと場面として告白シーンを切り取り、テンポや構成のよさで読者を引き込んでいく。
派手な設定やドラマがないにも関わらず、ポテンシャルの高さを感じさせる作品だ。
『折り鶴マーベラス!』は絵画教室に通う小学生2人と先生の掛け合いを描いた日常コメディ。かわいく飽きさせない小学生2人の表情が面白く、そのまま連載で読みたくなる。
『Apollogic nightmare』は悪夢退治をテーマにしたファンタジー系の作品。
方向性も読み味も三者三様で、雑誌の懐の深さを感じさせるラインナップになっている。
特に『台風卒業式』は、「完成度は求めません!」と明言する新人賞らしい作品で、現時点での完成度以上に「この人は今後どんな作品を描くんだろう」というワクワクするような感覚を味わわせてくれる。
「新しい才能、可能性を発見した!」という新人賞ならではの楽しみを強く感じさせてくれる作品だった。
求めるのは「個性で勝負する」タイプ
そもそも「ゲッサン」は「『個性で勝負する』タイプが活躍する雑誌」と編集部は語る。
「完成度は求めません!」という新人賞のキャッチフレーズには、こういう意味が込められているのだ。
個性が強すぎて雑誌が求めるカラーや企画に合わなかったり、求められるものと描きたいもののギャップに苦しんでいる漫画家志望者には、「ゲッサン」で新しい可能性を見つけだしてほしい。
実際、他誌でデビューしたのち、“個性主義”を掲げる「ゲッサン」でヒットを飛ばした漫画家も数多くいるという。
今回のリニューアルは、その上で「漫画家志望者にとって魅力ある賞にしたい」という意図から行われたもの。
また、面白いのはフォローアップの部分だ。
どのように作品が審査、評価されたかを詳しく掲載するために発表ページを増強したり、連載作家からゲスト審査員を迎えたりといった一般的な強化も行っているが、さらに「応募者全員に複製原画と実際の連載漫画のページを使った漫画実技指導が書かれた指導書を返送する」といったフォローを行っている。
こういったアイデアは、漫画家志望者や、かつては漫画家を志していた編集部員の声から生まれたものだという。
「『個性で勝負する』タイプを強く求めています」と強調する「ゲッサン」の新人賞。漫画家志望者にとっての魅力はもちろんだが、イチ読者としてもワクワク感のある新人賞として期待している。
個人的には、ともかく真田信政氏の新作が早く読みたいという気持ちだ。
©真田信政/小学館 ゲッサン
©土平ゆの/小学館 ゲッサン
©鈴木ユーマ/小学館 ゲッサン