読み切りレビュー
永美太郎『What’s Golden』帰国子女と在日韓国人だから何? 私は私のヒーローだ
武川佑
人種、国籍、信条、ごたまぜの大坂北摂で、軽やかなボーイミーツガールを
永美太郎氏の『What’s Golden(ワッツゴールデン)』前後編が、リイド社のWEBコミックサイト「トーチ」で掲載中。
大阪府の北部地域・架空の「北摂(ほくせつ)市」を舞台に、「リアルな」日常を、軽快なボーイミーツガールものとして描いた作品だ。
非マジョリティの2人が出会うとき
母の病気のため、イギリスから6年ぶりに帰国した春日敦子。
帰国子女だからと「将来は局アナなって玉の輿なの?」など無遠慮なクラスメートに辟易している。
そんな時、敦子はデモに参加していた自称ラッパーの高校生「DJゴールデン」ことキム・カンスに出会う。
キムの軽快なトークと人懐こいキャラクターが魅力的だ。
ノリのいいキムに、つい敦子はためこんだ鬱憤をぶつけてしまう。
キムは怒りもせず「当たり前やろ」と答える。これはアティチュード――信念の表明だと。
憧れを口に出す、それがヒーロー
キムの傾倒するヒップホップでは、アティチュードとは「確固とした信念、信条」を表す。見た目の格好良さではなく、訴えたい芯があるということだ。
次のデモで、キムの「Tell me what democracy looks like」というシュプレヒコールにマイクをとった敦子が、「THIS IS WHAT DEMOCRACY looks like」と答えるシーンは、2人が心を通わせる瞬間だ。
自分が何者か、自分の考えは。ダサいと思って口をつぐむほうがよっぽど格好悪い。
自分は自分にとってのヒーローでありたい。敦子の行動は爽やかで好感が持てるし、スッと心に染み入ってくる。
交じりあい、響きあう
『What’s Golden』には多くのレイヤーが存在する。
日本人というマジョリティから区別されがちな、帰国子女、在日韓国人。
デモに参加する人、デモを笑う人。
学校の文化祭に積極的に参加する人、しない人。
どのレイヤーでも敦子はマジョリティに加われず、疎外感を味わう。それは特別なものではなく、今の日本で誰もが一度は感じたことがある「生きづらさ」だ。
でも本当は、世の中は交じりあって、ハイブリットで、あるいはグラデーションであるということに、読むうちに気づかされるのだ。
キムが三島由紀夫のコスプレをして「天皇万歳」と叫ぶシーンは、最高にクールだと思う。
ヘビーな物事にヘビーにぶち当たっては疲れきってしまう。
軽やかに、柔軟に、人種も国籍も思想も乗り越えて交じりあい、響きあう。
それがキムの言う「バイブスを繋ぐ」ということではないだろうか。
清涼な読後感ともに、ほんの少し世の中が変わって見える。こういう作品が増えてほしいと切に思う。
©永美太郎/リイド社(トーチweb)