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田村正一『サラブレッドと暮らしています。』 馬に蹴られて休載!? 現役厩務員、漫画家デビュー!

加山竜司

厩務員の悲喜こもごも

厩務員が日常的に行う業務は、主に調教とレースだ。本作はこの“通常業務”を主軸として進んでいく。

中でも驚いたのがレース当日の厩務員の行動だ。厩務員は出走馬を発走ゲートまで誘導していくので、スタート地点から戻ってくるあいだにレースは終わっている。
日頃からもっとも競走馬と近しく接し、レースの現場にもいるのに、リアルタイムでは結果を知ることができない。厩務員にとっては「あるある」かもしれないが、われわれ読者からすれば、そこに悲哀を感じてしまう。

また、通常業務とは別に、能力検査(これをパスしないと出走馬登録ができない)に立ち会う際の苦労話も面白い。

そして、競馬関係者やファンなら誰でも知っていながら、なかなか公に語られる機会のない予後不良——つまり怪我などを原因とする安楽死処置についても、作者の個人的な体験が描かれる。そのドキュメンタリー性も見逃せない。

このように本作は、厩務員ならではの悲喜こもごもが語られる。
そこで読者は、厩務員にとっての幸せとは何か、競走馬にとっての幸せとは何かを、自然と考えさせられる。それについては作中で作者の見解が語られるので、ここでは言及しない。

担当馬の死から、競走馬にとっての幸せについて悩むたむら(作者自身)。まわりの手助けもあり、彼が導きだした答えとは……

しかし、ラストまで読んだあとで、本作のタイトルをあらためて噛みしめると、感慨もひとしおではないだろうか。

その職業ならではの喜び、働く意味。厩務員という特殊な職業が題材ではあるが、そこに普遍的なテーマを見出すことができるはずだ。



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©田村正一/白泉社