明日発売の新刊レビュー
『ロッキンユー!!!』石川香織 「ロックなんかキモい!」でもかっこいい根暗オタクとド素人の音楽青春物語
たまごまご
ロックなんてやってる奴キモいに決まってるだろ
不二美が演奏しているのはオルタナティブ・ロックと呼ばれる音楽。
「先鋭的とか新進気鋭の…」「ニュアンスよ要は」と彼は語る。多くの人に受けるエンタメではない、わが道を行く音楽、というのが不二美の思うオルタナのようだ。
不二美は、オルタナの権化みたいな人間だ。受け入れられたいとか目立ちたいとかがほとんどない。黙々とこもって好きな曲にのめり込む、超オタク気質。
記事冒頭でも紹介した「ロックなんかやってる奴キモいに決まってるだろ!!!!」のセリフは、読み切り版掲載時にも大きな反響を呼んだ。
真神「キモいけどかっこいいんだよ!!!!」
不二美「この良さは俺だけ分かってればいい的な気持ちと!! 人にも良いって思って欲しい気持ち!!」「むしろお前らにこの良さをわからせてやるみたいな!?」
ふたりの会話自体が、この作品の「ロック」を表しているかのようだ。
音楽オタクの、万人受けしない、激しすぎる情熱。
全力すぎるキモさは受け取り手によっては輝きだと、この作品は描く。
ワールズエンド・ダンスホール
不二美が真神と意気投合してから、初めて人前で演奏したのはwowaka(現実逃避P)の「ワールズエンド・ダンスホール」。真神が選んだ曲だ。
「ニコニコ動画」で有名なVOCALOIDの曲。
真神はこれを、ロック研で演奏するのはジャンル違いだと感じたのだろう、不二美に言うのをためらっている。
しかしこの曲、ふたりの感覚のあり方とかなり近く、音も割とオルタナティブ。
「こんな狭い部屋で、たったひとりでも踊っていいじゃないか」という、閉じた自分の世界の肯定がテーマ。まさに不二美と真神が、ふたりだけで「キモい」「かっこいい」とニヤついていたのと同じだ。
音楽が生まれた文化圏の差は、人が持つ情熱、キモかっこいいロックには関係ないのだ。
音楽に限らず何かが刺さった経験のある人は、是非読んでほしい。説明できない感情が襲ってきて、逃げられなくなる迫力が、効果線とフォントを大胆に使って描かれている。
今は、独りよがりでもかっこいい、不二美の音楽。
彼らが人前で受け入れられ目立つようになった時、どうなるのか気になる。
メジャーを目指す熱血青春ものになるのか、オタクがアンダーグラウンドで熱を爆発させる作品になるのか。音の技術の話は出てくるのか。
ふたりの勢い以上に、彼らの曲を聞いた聴衆の描写が、重要になっていくのかもしれない。
一気に増えなくてもいい。ひとり、ふたりと深く熱く彼らの音楽が刺さるほうが、エモいじゃん。
見たら一生抜けなくなって困るような熱を、作中の観客に、そして読者に、ぶちまける作品になってほしい。
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©石川香織/集英社