1. PR

    作家インタビュー

    『剥き出しの白鳥』鳩胸つるんインタビュー 「『ToLOVEる』よりも裸」から白鳥くんは生まれた

    籠生堅太

  2. PR

    明日発売の新刊レビュー

    『剥き出しの白鳥(はくちょう)』鳩胸つるん 異端の「露出狂」漫画は、王道少年漫画だ!

    籠生堅太

  3. PR

    新連載レビュー

    『キャッチャー・イン・ザ・ライム』背川昇 般若、R-指定が監修の百合×ラップな新連載

    一ノ瀬謹和

  4. PR

    明日発売の新刊レビュー

    『ブルーピリオド』山口つばさ 才能にノウハウで立ち向かう美大受験物語

    根本和佳

  5. PR

    新連載レビュー

    『水族カンパニー!』(イシイ渡) 偏愛獣医×ドジっ子飼育員の水族館コメディ

    根本和佳

  6. PR

    明日発売の新刊レビュー

    脇田茜『ライアーバード』音が見える天才少女と無愛想なギタリスト。2人の出会いが生む音楽

    たまごまご

明日発売の新刊レビュー

『ロッキンユー!!!』石川香織 「ロックなんかキモい!」でもかっこいい根暗オタクとド素人の音楽青春物語

たまごまご

ロックなんてやってる奴キモいに決まってるだろ

不二美が演奏しているのはオルタナティブ・ロックと呼ばれる音楽。
「先鋭的とか新進気鋭の…」「ニュアンスよ要は」と彼は語る。多くの人に受けるエンタメではない、わが道を行く音楽、というのが不二美の思うオルタナのようだ。

不二美は、オルタナの権化みたいな人間だ。受け入れられたいとか目立ちたいとかがほとんどない。黙々とこもって好きな曲にのめり込む、超オタク気質

記事冒頭でも紹介した「ロックなんかやってる奴キモいに決まってるだろ!!!!」のセリフは、読み切り版掲載時にも大きな反響を呼んだ。

真神「キモいけどかっこいいんだよ!!!!」
不二美「この良さは俺だけ分かってればいい的な気持ちと!! 人にも良いって思って欲しい気持ち!!」「むしろお前らにこの良さをわからせてやるみたいな!?」

ふたりの会話自体が、この作品の「ロック」を表しているかのようだ。
音楽オタクの、万人受けしない、激しすぎる情熱。
全力すぎるキモさは受け取り手によっては輝きだと、この作品は描く。

ワールズエンド・ダンスホール

音楽を知らない真神が、ジャンルの壁でためらうシーンは印象的

不二美が真神と意気投合してから、初めて人前で演奏したのはwowaka(現実逃避P)の「ワールズエンド・ダンスホール」。真神が選んだ曲だ。

「ニコニコ動画」で有名なVOCALOIDの曲。
真神はこれを、ロック研で演奏するのはジャンル違いだと感じたのだろう、不二美に言うのをためらっている。
しかしこの曲、ふたりの感覚のあり方とかなり近く、音も割とオルタナティブ。

「こんな狭い部屋で、たったひとりでも踊っていいじゃないか」という、閉じた自分の世界の肯定がテーマ。まさに不二美と真神が、ふたりだけで「キモい」「かっこいい」とニヤついていたのと同じだ。

音楽が生まれた文化圏の差は、人が持つ情熱、キモかっこいいロックには関係ないのだ。

音楽に限らず何かが刺さった経験のある人は、是非読んでほしい。説明できない感情が襲ってきて、逃げられなくなる迫力が、効果線とフォントを大胆に使って描かれている。

不二美の曲を聴く真神の心象風景。なんだかわからないけど心を掴まれる感覚、エモい

今は、独りよがりでもかっこいい、不二美の音楽。
彼らが人前で受け入れられ目立つようになった時、どうなるのか気になる。
メジャーを目指す熱血青春ものになるのか、オタクがアンダーグラウンドで熱を爆発させる作品になるのか。音の技術の話は出てくるのか。

ふたりの勢い以上に、彼らの曲を聞いた聴衆の描写が、重要になっていくのかもしれない。
一気に増えなくてもいい。ひとり、ふたりと深く熱く彼らの音楽が刺さるほうが、エモいじゃん。
見たら一生抜けなくなって困るような熱を、作中の観客に、そして読者に、ぶちまける作品になってほしい。



試し読みはコチラ!

  1. 1
  2. 2

©石川香織/集英社