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『書店員 波山個間子』黒谷知也 本好き女子を眺めていたら、自分も本が好きになる

籠生堅太

ようこそ、ブックアドバイザーのいる本屋さんへ!

ブックアドバイザーという職業をご存じだろうか。
「あの本なんだったかしら?」という曖昧な問い合わせから、「こんな本が読みたいんけど」といったざっくりとした要望まで本にまつわるあらゆるリクエストに応えて、読者と本をつなぐプロフェッショナル、それがブックアドバイザーだ。

読者に新しい世界を提供するプロフェッショナル。それがブックアドバイザー

とある書店でブックアドバイザーを務める波山個間子(はやま・こまこ)さん
部屋の壁は本棚に埋め尽くされ、寝床は押し入れ。本のために食費を節約し、読書のおともにちょっとのお酒を嗜むような(そしてお酒は涙として流れていってしまう)、まさに本の虫。

そんな彼女を主人公とした黒谷知也氏による「COMIC it」連載作品『書店員 波山個間子』第1巻が明日2月15日に発売される。

本と彼女の物語

本と向き合うことは、自分と向き合うことでもある。
そんなことを『書店員 波山個間子』は再認識させてくれる。

基本的には1話完結型。
お客さんからの問い合わせやリクエストに応えるかたちで、実在の本を紹介していくブックガイド的な側面も持つ作品なのだけれど、それ以上に紹介される作品と個間子さんがどのような関係にあるのか、という部分がクローズアップされる。

誰もが持っている本との思い出。彼女は人よりもそれがちょっと多いのだ

本は、それを読んだ人の心だけをそっと動かしてくれる。
映画やお芝居のように、誰かと場を共有することもなく、本と自分という二者の間で取り交わされる内緒話みたいなものだ。
だからこそ特別な本との出会いは、強烈に人の心を動かす。

本を読み、自分の心の動きを見ることで、またひとつ自分がどんな人間だったかを知っていくのだ。
本だけが持つそんな魅力を、個間子さんは自分と本との思い出を語ることで、私たちに思い出せてくれる。

ときには切ない思いがあふれることも

黒谷氏のシンプルで、コントラストがパキっとついた作風で綴られる物語は、個間子さんが本当に本をオススメしてくれているような気分にさせてくれる。

文系男子のドリームとしての個間子さん

ブックアドバイザーになるくらいだから、個間子さんはかなりの読書家だ。
けれど知識をひけらかすような部分もないし、つねに本にたいして貪欲だ。
かわいい。

物静かな人だと思ったら、妙に意地っ張りだったり、お客様に本の内容を説明していて思わず泣いてしまったり、そんなところも飛びきりかわいい。

普段はぼんやりした雰囲気の個間子さんだが、本のことになると感情的な部分が露出する

自分の感情に素直なのだ、個間子さんは。
そして自分が好きなものを誰かに説明するために、ほかの何かをバカにしたりするようなことはない。
ただ静かに、自分が何故この本が好きなのかということを語ってくれる。そんな彼女の言葉にずっと耳を傾けたくなってしまう。

とびきりかわいい女の子が、私たちのとびきり大好きな「本」というものの魅力を再び教えてくれる。
新しい刺激に飢えている人には、まず『書店員 波山個間子』を。そして個間子さんとの出会いが、さらなる出会いの呼び水になるに違いない。



試し読みはコチラ!

おまけ

作中に「開いたら いつでもどこへでも 頭と心のどこでもドア」というセリフがある。
個間子さんが、本のことを指して言ったセリフなのだけれど、『書店員 波山個間子』にも、まさに「どこでもドア」といえるものがある。それは、各話の扉絵だ。

「個間子さんと本」という共通のモチーフで描かれるものの、そのシチュエーションはさまざま。
しかし掲載誌の「COMIC it」をパラパラとめくっていて、この扉絵に出くわすと、いつもそこで手を止めて『書店員 波山個間子』を読み始めてしまう。
扉絵は、私を『書店員 波山個間子』の世界に連れていってくれる、まさに「どこでもドア」なのだ。

©2017 Kuroya Tomoya /KADOKAWA