1. PR

    作家インタビュー

    『剥き出しの白鳥』鳩胸つるんインタビュー 「『ToLOVEる』よりも裸」から白鳥くんは生まれた

    籠生堅太

  2. PR

    明日発売の新刊レビュー

    『剥き出しの白鳥(はくちょう)』鳩胸つるん 異端の「露出狂」漫画は、王道少年漫画だ!

    籠生堅太

  3. PR

    新連載レビュー

    『キャッチャー・イン・ザ・ライム』背川昇 般若、R-指定が監修の百合×ラップな新連載

    一ノ瀬謹和

  4. PR

    明日発売の新刊レビュー

    『ブルーピリオド』山口つばさ 才能にノウハウで立ち向かう美大受験物語

    根本和佳

  5. PR

    新連載レビュー

    『水族カンパニー!』(イシイ渡) 偏愛獣医×ドジっ子飼育員の水族館コメディ

    根本和佳

  6. PR

    明日発売の新刊レビュー

    脇田茜『ライアーバード』音が見える天才少女と無愛想なギタリスト。2人の出会いが生む音楽

    たまごまご

新連載レビュー

糸なつみ『おとなとこども、あなたとわたし。』恋じゃない、愛の年の差オムニバス。

武川佑

祈るような。あなたへの「ねがい」

たぶんこの作品は恋愛の話じゃない。もっと、ひろい《愛のかたち》を描こうとしている。

口には出せないけれど、誰もが持っている根本的な寂しさ。
ひとりは寂しいから。誰かと居たい。誰かの支えになりたい。
僕を。私を。ひとりにしないで。

誰かを純粋に想うこと。願いを告白するとき。それは祈りに似ているのかもしれない。

年の差とは、生きる物語が違うということ。

8月17日発売の「COMIC it vol.16」から糸なつみ氏の商業デビュー作『おとなとこども、あなたとわたし。』の連載がスタートした。「COMIC it」公式サイトでも、作品を楽しむことができる。
「年の差」をテーマに異なる3組の物語からなるオムニバスストーリーで、人と人の心の交流を情感ゆたかに描いている。

「あなたの物語に入れたらいいのに」

“年の差”とは、生きる物語が違うこと。
第1話は、マンションの隣同士に住む18歳の男子高校生・のんと、11歳の小学生・育(いく)が主人公だ。
育は、のんが気になっている。きっと初恋であろう育が、学校で友だちとする恋バナは甘酸っぱく、読むこちらがニコニコしてしまう。

放課後、のんの家で談笑する2人。一見、仲のいい兄妹のような関係に見えるが……

一方、のんの家庭は複雑な事情を抱えていて、彼は家を出たい衝動に駆られる。
のんは育に苦悩を告白する。小学生の頃に戻りたい、小学生だったら悩むこともなかったのにと。

「のんの物語に入りたい」と願う育を突き放すのん。立ちふさがる「年の差」という壁はあまりに高い

けれど11歳の小学生には、彼の苦しみに寄り添うことしかできない。
2人の気持ちは「年の差」ゆえにすれ違い、通じあうことはない。
――いまのところは。

年上であるのんに向ける、ささやかで、ひたむきな育の好意が、ほろ苦い。2人の息苦しさは解消される時が来るのだろうかと、何ともやるせない気持ちになってしまう。

「あなた」はもういないけど。私は生きなければならない

第2話になると、登場人物はがらりと変わる。「年の差」というテーマはそのままに、まったく別のストーリーを紡いでいく。オムニバス形式の本作の魅力が一気に花開く2話だ。

亡くなった老婦・夕里子夫・白川のもとに、葬式から3カ月後、妻が描いた絵を持って、絵画教室の若い男性教師・蒲田が訪ねてくる。

不倫を疑った白川を相手にしない蒲田。口の悪いやりとりが楽しい。白川と蒲田が互いに似ていると気づく、印象的なシーンだ

ネグレクトを受けた過去を持つ蒲田は、密かに「夕里子」を慕っていた。彼女の中に、求める母親像を見たのかもしれない。
回想シーンでぽろっと本音をもらす蒲田に「夕里子」が返す言葉と笑顔。このシーンはぜひ見てほしい。

でももう「夕里子」はいない。彼女の死が、蒲田と白川を結びつける。
祖父と孫ほども年の違う2人は、これからをどんな風に生きていくのか。
最後に蒲田が白川に言う「僕を一人にしないで」が、心に刺さる。

作品は、歳の違う2人のどちらに感情移入するかによって、物語の見え方も違ってくるだろう。読む人によって、また読み返すごとに、印象が変わるのだ。

根底にあるのは、誰かを理解したい、誰かとともにありたいという、祈るような切実な「ねがい」だ。筆者はいくえみ綾氏の名作オムニバス『バラ色の明日』を思い出した。恋愛だけでなく、人と人との「ねがい」のかたちをさまざまに切り取ってみせる描写は、本作に通じるものがある。

来月発売の「COMIC it」vol.17掲載予定の第3話では、3組目の年の差ストーリーが登場、つづく第4話にはのんと育の少し成長した話が描かれるそうだ。楽しみすぎる!

少女マンガ、青年マンガの区別なく、男女や年齢のボーダーをこえて、ひろい読者に読まれてほしい。
じんわりとしみ入るスローな物語に、ぜひふれてほしい。



試し読みはコチラ!

©2016 Natsumi Ito / KADOKAWA