デビューから12年。一度も諦めなかった
作品の成り立ちを伺いましたが、金さんは、最初にR30漫画賞で作品を読んだとき、どういった印象を。
担当編集者の金氏。「『ゆとりやくざ』については、早坂さんが楽しく描けるのが一番です」と語る
金
トータルでレベルの高い作品だと思いましたね。僕もゆとり教育世代のほうが、しなやかでタフな奴らが多いなと思っていて、「ゆとりって、世の中が言うほどバカなのかな?」っていう疑問があったんですよね。実際にゆとり世代の人でも立派な人ってたくさんいるし。
早坂
そうなんですよね。ゆとりゆとりってバカにしてる人にも、「お前そんなこと言えるのかよ」みたいな人もいますし。
早坂さんと同じような感覚が、金さんのなかにもあったと。
金
他にも思ってる人いると思うんですよね。そういう時流を捉えた企画性や、やくざが常識をツッコむっていう倒錯した部分だったり。
乱暴な態度に驚くこともあるが、言っている事自体は至極当然なことの多い武堂さん
引っかかる部分が色々多かったと。
金
そうそうそう。もしかすると、やくざの世界にも、ゆとりの人がいて、大変な思いしてたりすんのかなって。一度読んだら、なかなか忘れないですよね。
編集部の反応としては。
金
編集部全体でも評判でした。なかでも当時の副編集長で、今は「グランドジャンプ」の編集長の増澤がかなりプッシュしてくれましたね。
編集部として期待の新人ということですね。
金
そう言っていただいて、なんの問題もないと思います。
では満を持して連載に。
早坂
いや、最初は連載ではなく、何回かは読み切りでした。3回か4回くらい。
金
3回ですね。やっぱり雑誌だと、どうしてもページ数の制限があるので、なかなかすぐに連載とはいかず。そこで増澤に「『ゆとりやくざ』作っておけよ。代原が必要なときはあるから」って言ってもらえて。
連載作家さんが原稿を落としたり、ページ数が足りないときには、その代わりとして『ゆとりやくざ』を載せる、と。
金
でも賭けですよね、描いていただいても、日の目を見るかわからない原稿ですから。だから早坂さんにも全部ぶっちゃけて。「載せると約束はできないけれど、早坂さん、どう思います!?」って。
早坂
「載ったらラッキーだな」くらいの感じでした。ひとエピソード4Pなので、そんなに大変でもないし。
作品づくりは、金氏からのざっくりとした提案を受けて、早坂氏が作り込むというスタンスで行われるらしい
金
そうやって原稿をためていたら、たまたま休載がつづいたときがあって。「誰か原稿ねぇか?」「ありますよ」「誰か原稿ねぇか?」「ありますよ」っていうやりとりをへて、ようやう連載までたどりついた感じですね。
そして今回、ようやく初単行本の発売ということですが、先生は初受賞からはずいぶん時間がたっていらっしゃるということですが。
早坂
一番最初は「週刊少年ジャンプ」で賞をいただいたんですが、それが12年前ですね。なかなかうまくいかなくて。その後、他の出版社で連載したりもしたんですが、単行本化までは至らず。
正直、12年のあいだに「漫画はもう諦めよう」という気持ちになったことは。
12年という時間は、あまりに長い
早坂
それが特にないんですよね。そもそも今でも自分が漫画家だと思ってなくて。
金
ちょっと早坂さん! しっかりしてください(笑)。
早坂
なんでしょう、ただ漫画を描いてる人というか。他の仕事しながら、好きで描いた漫画を編集部に送ったら、雑誌にも載せてもらえて、そのうえお金まで……、という感じです。
好きなことして、お金がもらえてラッキー! みたいな。
早坂
そうですね、そうですね。それでも作画がアナログだったころは、結構時間かかっていて正直めんどくさかったんです。それが5、6年以上前にデジタルに移行したら、すごい作業スピードが上がって。今はもう楽しさしかないですね、漫画描くことにかんしては。
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これからも一生描く
写真撮影:yomina-hare編集部
©早坂啓吾/集英社