作家インタビュー
『キャッチャー・イン・ザ・ライム』背川昇インタビュー中編 悩みに優劣はつけたくない。辛いことは、なんだって辛いから
一ノ瀬謹和
さまざまな問題を抱えたキャラクターたち
本日の発売の「スピリッツ」から、ついに最終章に突入した『キャッチャー・イン・ザ・ライム』(以下『CITR』)。前回、どのようにして『CITR』が生まれたのか、その誕生秘話をお聞きした著者・背川昇氏と担当編集者の金城小百合氏への直撃インタビュー。今回は『CITR』に登場するキャラクターたちについて、お話を伺った。それぞれに問題を抱えたらキャラクターたちを描くにあたって、どのような葛藤があったのだろうか。
背川昇インタビュー前編 幻の連載をへて、生み出された作品に託した想い
背川昇インタビュー後編 自分のための行動が、誰かの踏み出す力になる
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悩みに優劣はない。辛いことは、なんだって辛いから
もともと金城さんがラップ漫画をやりたいと考えていたということですが、もともとラップはお好きだったんですか? それとも何か別に意図があって?

数々のヒット作を世に送り出してきた金城氏
そこからどんどんハマっていったと。
それはどういったところが。
お話を聞いていて、金城さんは皐月ちゃんのキャラクターに凄く似ているなと思いました。やっぱり、そういった部分の影響はあるのでしょうか?

寡黙な背川氏。話されるときも、丁寧に言葉を選ばれている印象だった
キャラクターの内面といえば、背川先生は「COMICリュウ」で『少女シグナレス』という読み切りを発表されていますよね。

「COMICリュウ」2017年11月号に掲載された読み切り。極度の恥ずかしがり屋で、緊張すると暴力をふるってしまう少女の物語
この作品においても自分をうまく表現できない少女が登場します。『CITR』のキャラクターたちと通ずるところがあると思うのですが、「自己表現」は背川さんが感じている大きな問題のひとつということなのでしょうか?
何かしら問題を抱えているキャラクターが、そのダメさを抱えながら成長していくみたいな部分に特に熱量が込められているような。
そうした想いを持った背川先生と、数々の名作を世に出した金城さんが出会ったわけですね。金城さんは新人漫画家さんと作品を作るときって、どのような役割を担って、どのような影響を与えているのでしょうか?
(一同笑)

突然の金城氏の発言に、一気になごむ取材現場
やはり漫画編集者としてお仕事されていて、漫画家さんに必要とされているかって、常に気になっているものなんでしょうか?
背川さんから見て、金城さんはこの作品にどういう影響を与えていると思いますか?
「キャラクターを補強する」というのは?
本作にはセンシティブな背川先生特有の眼差しというか、共感性が活かされていると感じます。ウツギちゃんが抱えるMtF(※Male to Female。身体的、社会的性別を男性から女性へと移行したい人、もしくはすでにした
人)の問題って、本当に繊細にならなければいけない部分だと思うんですけど、描く時に注意したことは?

楽しそうな場面でも、一瞬曇るウツギの表情。こうした感情の一瞬の変化も丁寧に描かれている
逆に、むしろここは絶対描かなくちゃいけないと思われている部分があったら教えていただけますか?
トランスジェンダーのキャラを出そうというのは、背川先生から提案があったんですか?
軽率に取り扱えない話題ですよね。金城さんとしてはどう思いました?
やはりきちんと取材をすることが重要だと。
それはやっぱり今、世間的にも関心の高い出来事だからでしょうか。

こちらも部長決定戦から。優しさなのかもしれないけれど、皐月からどこか気をつかわれていることをウツギが敏感に感じ取る
自分もそこが凄く好きです。背川先生の暗い人特有の動きというか、挙動にすごいリアリティを感じていて、先生の可愛らしい絵柄じゃないと、心臓が止まるくらいゾッとしてたと思いますね。
トランスジェンダーの方以外にも取材はしましたか?
強面の人も多いと思うのですが、緊張されたりしませんか?
作中、蓮たちの貧しい家庭環境を描いた話がありましたよね。やっぱり貧困問題とラップは切っても切れない関係にあるし、そうした問題に直面しているラッパーの方々も居ると思います。そうした方を取材されたりは。
『DANCHI NO YUME』って、DVDとか販売されていないですよね。なかなか観る手段がないと思うのですが。
やはり、映画を観たことで認識が変わった部分はありましたか。

錆びついた手すり、ヒビだらけの外壁にグラフィティ(落書き)。描き込みの圧がすごい
貧困はヒップホップとしても重要というか、多くの人の初期衝動になっている要因でもあるので、描かないと嘘っぽくなってしまう部分もありますよね。ご自身の経験のなかに、貧困との接点は?
「パンツ履いてない女の子」って、言葉の持っているパワーがすごいのですが、どういうことなんでしょうか?
貧困をはじめ、『CITR』では登場キャラクターが各々色々な種類の悩みを抱えています。でも悩み自体は誰もが持っているものだという感じで、悩みに優劣をつけず、あくまでも並列に描写しているのが特徴だと思います。
問題まみれの物語ではあるものの、シリアスに振りすぎず、かといって問題自体を茶化したり、軽薄化することは一切せずに、しかしそこまで露悪的にしないというバランス感覚が上手いですよね。
テーマは普遍的ですが、やはりラップという題材は、まだまだハードルが高く感じる読者も多いと思います。
今と全然違う(笑)。
来週発売の「スピリッツ」でいよいよ『CITR』完結! 最終回掲載号が発売される4月23日更新予定のインタビュー後編では、連載をふりかえり、想い出深いエピソードなどをお話していただいた。お楽しみに!
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©背川昇/小学館 週刊スピリッツ連載中
今回のゲスト
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背川昇
『キャッチャー・イン・ザ・ライム』著者
1995年、静岡県生まれ。
2017年7月より初連載『キャッチャー・イン・ザ・ライム』を連載開始。自主制作漫画展示即売会・コミティアにサークル「キセガワ上流」として参加。 -
金城小百合
小学館「ビッグコミックスピリッツ」編集部
2006年、秋田書店に入社。「エレガンスイブ」編集部在籍中に『cocoon』『花のズボラ飯』などの立ち上げに携わる。2013年に小学館「スピリッツ」編集部へ。『あげくの果てのカノン』『プリンセスメゾン』などを担当。ファッション・カルチャー誌「Maybe!」の立ち上げにも参加、編集している。