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『八雲さんは餌づけがしたい。』里見U 未亡人と高校球児のナイショの時間

川俣綾加

料理好き未亡人は、食べ盛り高校球児の胃袋を満たせるか!?

「ヤングガンガン」で連載中の『八雲さんは餌づけがしたい。』第1巻が、明日9月24日に発売される.

ひとりで暮らす八雲柊子(やくも・しゅうこ)、28歳。彼女には誰にも言えない秘密があった。
それは、隣の部屋に住む高校1年生の大和翔平(やまと・しょうへい)に晩ごはんを作り、餌づけしていることだった。

高校球児のすさまじい食欲に圧倒

柊子は夫を亡くし、ひとり暮らし。生活は精彩を欠き、大好きだった料理も楽しいと思えなくなっていた。名も知らぬ隣人が帰宅する姿を目にし、思いつきで挨拶代わりにおにぎりを差し入れ。すると、すごい勢いで3個全てをその場で完食!

男子高校生の食欲に圧倒されながらも、胸にじんわりと何かがともった柊子。そこから柊子の部屋で夕食を共にする日々がスタートする。

「ただいま」「おかえり」なにげない挨拶だけれども、2人にとってはナイショの時間のはじまりなのだ

野球の名門・桐聖学院でレギュラーの翔平はハードな練習に励む日々。育ち盛りの時期に加え運動量も相当なものだ。加えて、監督からは「お前は細いからもっと食え」とひと晩でご飯8杯のノルマも。

そこに栄養満点のおいしいごはんがあるなら、食べない理由はない。

料理で満腹にさせたい柊子と、いくら腹に入れても足りない翔平。この出会い、食欲を通じたバトルのようでもある。

与える側が彩りを取り戻す

なんといっても翔平の食いっぷりが気持ちいい。仏頂面で口数も少ないけれど、表情や仕草を見ていると「餌づけがしたい。」気持ちになっていく。

女性読者も男性読者も引き込む設定づくりが巧み。

「ただいま」と柊子の部屋に帰ってくる翔平。特大ハンバーグの半分をいっきに口に入れ、ホカホカごはんをかき込む翔平。みちみちに食べ物を詰め込んでいるせいでハムスターのごとく頬を膨らませおかわりをする翔平。

正直にいえば、もしもこれが柊子と同年代の相手だったなら「もっと『ありがとう』とか『おいしい』とか言えよ!」「作ってもらう一方か!?」と感じてしまうところだが、高校生なので「若者ならばおいしそうにもりもり食べるだけでよし」と素直に感じる。この設定が絶妙である。

翔平のため、3合炊き炊飯器を6.5合炊きのものにこっそり新調してしまう柊子は健気でいじらしく、翔平に夫の面影を垣間見ている姿はうら悲しい。餌づけするのは誰のためでもなく柊子自身が再生するためだ。

餌づけの時間を必要としているのは、実は柊子のほう。今後、2人の関係はどのように変わっていくのか

2人の関係は母と息子、姉と弟、ただの隣人同士、どれにも当てはまる。
ふとした時に彼氏彼女の顔ものぞくが、それはこの先のお楽しみ。



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