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『BEASTARS(ビースターズ)』板垣巴留 本能に悩まされる思春期のケモノ達

根本和佳

食ってはならない、殺してはならない。この腕の中に、待ちわびた甘美があるというのに

「週刊少年チャンピオン」連載中の、板垣巴留氏による『BEASTARS(ビースターズ)』コミックス第1巻が、明日1月6日に発売される

弱者が食われることのない平穏な世の中は、暗闇からの視線ひとつで崩壊する

物静かなオオカミを揺さぶる、学園の愛憎と内なる本能

肉食獣と草食獣がともに暮らす世界。
全寮制のチェリートン学園で、演劇部に所属するアルパカのテムが殺された。
犯人は肉食獣だという噂が学内を駆け巡り、共同生活のバランスは一気に崩れる。

もっとも怪しまれたのは、ハイイロオオカミのレゴシ。テムとは演劇部で仲よくしていた、この物語の主人公だ。
レゴシは物静かで思慮深い性格だが、食肉目イヌ科でも最大サイズのハイイロオオカミ。高い戦闘力を持つ大型肉食獣には、見つめられるだけで誰もが萎縮してしまう。

そんなレゴシはある夜、アンゴラヒツジのエルスを追って、稽古場へ……。

大型肉食獣と2人きり。か弱き草食獣に、逃げ場はない

この世界では、肉食は重罪だ。
肉は街の飲食店でも出されず、肉食獣たちは豆や乳製品、卵でタンパク質をとる。そんな肉食のなくなった世の中だからこそ、誰もが「本能の目覚め」を恐れている。
肉食獣であるレゴシたち自身にとっても、肉を欲する本能はそのまま「仲間殺し」を意味するからだ。

ツメの鋭さ、牙とアゴの破壊力、強靭な肉体、そして獲物を射ぬく視線。どうあっても逃れられない、大型肉食獣という業。静かに過ごしたかった17歳のレゴシの生活は、ある出会いから一変する。

とっさに抱きしめてしまった。小さなウサギと、腹の底からわき出る赤黒い本能を……

深みのある豊かな“動物像”と、それぞれが抗うべき運命

大きさも性質も異なる動物たちが集まる、学校という閉鎖空間。
事件を境にそれぞれがナーバスになり、変化に見舞われる。
テムの代役をめぐる演劇部内のポジション争いや、恋愛感情のもつれ、同性間でのマウンティング。青年たちは、さまざまなものに悩まされていた。

ドワーフ種のメスウサギ・ハル。都合のいい先入観に振り回される彼女は、別種のウサギからも疎まれていた

また、演劇部の役者長・アカシカのルイの立ち居振る舞いも心を揺さぶってくる。
学校全体を統率する英雄的地位「ビースター」を目指す孤高のエリートは、「草食獣である自分が君臨すること」に悲壮なまでのこだわりを見せる。
レゴシの憂い、ハルの諦観、ルイの危うさ。静かだが熱量のある豊かな感情表現が、彼らへの興味を深めてくれる。

ルイの挑発的な物言いには、気高さと高慢さ、そして覚悟が垣間見える

思春期の青年は、本能に従って生きてしまうものだ。それが「青春」と呼ばれたりもする。だが大型肉食獣のレゴシは、本能に抗うことで青春を維持できる。
いま腕の中にあるのは、けっして味わってはならない甘美。ツメを立てれば血があふれ出る、強く抱いたらちぎれてしまう、愛しくて口づけたい……肉。



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©板垣巴留(週刊少年チャンピオン)